【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.10 発達障害(1)自閉スペクトラム・自閉スペクトラム障害

2000年代初頭、ガレージ・ロック・リバイバルという流行がありました。The storkes、The White Stripes、The Hivesなどのように、「The」を冠したバンドが多かったのですが、その中のひとつにThe Vines(ザ・ヴァインズ)がいます。

ザ・ヴァインズはオーストラリアのバンドですが、デビュー・アルバム『Highly Evolved』がいきなり全世界で200万枚近い大ヒット(全英5位、全豪3位、全米11位)となり、注目を集めました。

 

そのザ・ヴァインズの中心人物であるクレイグ・ニコルズは、暴言を吐いたり暴行事件を起こしたりと、トラブルメーカーとしても知られていました。

ところが、そうした行為を起こしてしまうのは、彼が「自閉スペクトラム症・自閉症スペクトラム障害(ASD)」(*1)であったことに起因することがわかったのです。自閉症スペクトラム障害とは、最近メディア等でも取り上げられることが多くなってきた「発達障害」のタイプのひとつです。

彼の場合「臨機応変な対人関係が苦手」というASDによる先天的な特性のため、毎回違うインタビュアーによる取材等は、かなりのストレスになっていました。また、毎回新しい土地で新しい人たちと関わらざるを得ない「ツアー」も、彼にとっては重大なストレスとなっていました。それらが蓄積して「暴発」した結果、さまざまなトラブルを引き起こしていたのです。

このエピソードについてより詳しくはこちらに書きましたので、興味のある方はお読み下さい。

さて、ここで「臨機応変な対人関係が苦手」という言葉が出てきましたが、これを読んでいる方の中には「そういうのはみんな、多かれ少なかれよくあることだよ」と思われた方もいるかもしれません。そこが発達障害にまつわる誤解のひとつです。発達障害に関する説明に入る前に、まず、どのような誤解があるかを見てみましょう。以下は、NHK発達障害プロジェクトに寄せられた、当事者の方の投稿から、一部引用したものです。

発達障害の特性を説明しても「誰にでもあることだ」や「特性を理由に怠けている」「あちこち病気して忙しいね」等言われ辛い。(女性50代 当事者 )

みんなが当たり前にできることができない人がいて それは当人のせいでも 親の育て方のせいでもないことがなかなか認知されてないと思う。大なり小なり みんなそんな事あるよ と言われるとそんな簡単な問題じゃないと思って ギャップを感じる。(女性40代 当事者 )

怠けていたり、わざとミスをしていると思われがちで、やる気がないように誤解されているけど、まったくそうではない。(男性40代 当事者)

病気と障害の違いが理解されず「投薬や本人の努力次第で治るもの」と誤解されている(女性 40代 当事者)

障害となっている人にとってそれは「誰にでもあるレベルではない」のです。クレイグ・ニコルズが感じていたストレスは、時と場合によって「自分の命が削られるような感覚になるくらいつらいもの」だったのです。彼は医師の指導でツアーを極力控え、レコーディングに専念することで、状態が好転していきました。2018年には通算7枚目となるアルバム『In Miracle Land』を発表しています。

では、自閉スペクトラム症・自閉症スペクトラム障害とはどんな特徴があるのか、米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルである『DSM-5』で確認してみましょう。以下は『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き』(医学書院)からまとめたものです。

【自閉スペクトラム症・自閉症スペクトラム障害】

(1)相互の対人的—情緒的関係の欠落
(例)
対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりができない。
興味、情動、または感情を共有することが少ない。
社会的相互反応を開始したり応じたりすることができない。

(2)対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥
(例)
視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥。
顔の表情や非言語的コミュニケーションの欠陥。

(3)人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥
(例)さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ。

※以上の例は一例であり、網羅したものではありません。

上記に指摘された特徴と共通しているのですが、英国の児童精神科医であるローナ・ウイングの「社会性の障害」「社会的コミュニケーションの障害」「社会的イマジネーションの障害」という「3つ組の障害」という定義もわかりやすいので、興味のある方はこちらで調べていただいても良いかもしれません。

これら以外に、感覚の特異性がある場合があり、すべての感覚で鈍感さや、反対に敏感さが生じることがあります。

【聴覚】ある音には敏感に反応する一方で、違う音には鈍感であるなど、音源の種類によっても反応が異なることも多い
【視覚】特定の視覚刺激を恐れる。視覚的な刺激に対する独特の感じ方がある。
【味覚】味、温度、舌触りなどに過敏であったり、逆に鈍感だったりする。
【嗅覚】特定の臭いを極端に嫌がったり、逆に特定の臭いを頻繁に嗅ごうとしたりすることもある。
【触覚】人から触られることを嫌がる。軽く触られただけでも怒り出す人もいる。特定の感覚刺激を好む場合もある。
【温冷感覚】暑さ寒さに鈍感な場合があり、火傷したり熱中症になってしまったりすることがある。反対に敏感なためクーラーをかけすぎたりする。
【痛覚】 痛みに関して敏感、逆に鈍感だったりする

こうした感覚の特異性は、ストレスが高まったときにより強く出ることもあり、「単なるわがまま」と言われてしまうこともありますが、本人にとっては重大なことですので、周囲の配慮も必要です。また、連載のVol.5でも少し触れましたが、暑さや寒さや痛みに鈍感な特性を持っている人の場合は、本人が平気だと言っても、一定条件を超える場合には、周囲が止めるべきですし、本人も自覚しておいた方が良いのです。

その他、特定の領域に関する記憶力が優れていることがあり、それが社会生活上の武器になり得ることもありますが、いったん記憶したことを忘れられないため、それが不快な経験や悲しい体験の場合、いつまでも強い心痛を感じてしまったり、細部の記憶のために物事の優先順位をうまく決められなかったりする場合があります。

もう少し、現れる特徴に関して具体的な例をあげてみましょう。これらは人によって強弱があり、強く出過ぎてしまった場合、生きづらさを生じてしまいます。「自閉症スペクトラムとはー特徴と症状、どんな人が当てはまるのか?発達や大人になってからの不安について」https://medicalnote.jp/contents/150530-000017-MFVVZG から引用します。

  • ひとりでいることを好む
  • 受け身な態度の対人交流
  • 一方的すぎる対人交流
・
  • 人情に配慮することに疎い

言葉を用いたコミュニケーションでは

・ 話し言葉が遅れている
・「おうむ返し」が多い(エコラリア、反響言語)
・話すときの抑揚が異常である
・言語による指示を理解できない
・ 会話をしていてもかみあわない
・ 敬語が不自然
・皮肉を言っても通じず、たとえ話がわからない

言葉を用いないコミュニケーションでは

・身振りや指差し(体の動き)が理解できない
・目線、眼差し(目の動き)が理解できない
・言外の意味が理解できない
・話の文脈が理解できない

著しく興味が限局すること、パターン的な行動があること

・特定の物事に対して強い興味をもつ
・特定の手順を繰り返すことにこだわる
・常同的な動作を繰り返していく
・興味をもった領域に関して膨大な知識を持つ
(鉄道、天文学、生物、地理、コンピュータ、テレビゲームなどさまざまなパターンがある)

こうした特徴をもっているアーティストが身近にいる人もいるのではないでしょうか? 特定の物事に強い興味をもつところなどは、クリエィティブな面で強みになる場合もありますが、これらが「育てられ方などのせいではなく」「生まれながらの脳の気質的な特質によって」発生していて、時に生きづらさの原因となっているのです。当事者だけでなく、周囲のひとが、多様な人のあり方のうちのひとつに、こうした特性を持った人もいるのだということを知ることが大切だと思います。

(*1)クレイグ・ニコルズは当時「アスペルガー症候群」と診断をされましたが、アメリカ精神医学会の診断基準が2013年に改訂されてから、現在ではアスペルガー症候群は自閉スペクトラム症に統一されました。


手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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