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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第13回

StoryWriter

冬の新宿・歌舞伎町。前略、道の上より。

Xmasイヴの夜、「ロザーナ」のエリカ嬢による、逆Xmasプレゼントとでも言うべきドリンク攻撃で無一文になった私は、路上をさまよい歩いていた。

もしも、あのとき高級シャンパンを入れていたら。もしも、あのときドリンクオーダーを阻止できていたなら。もしも、ピアノが弾けたなら。

いくら考えても、答えはでない。なぜ私は、こうも報われないのだろうか。

これまで、数えきれないほどキャバクラに通い、日本の景気回復に尽力してきた私。政府に感謝してほしいくらいだ。もし、私に権力を与えてくれるのならば、新元号を『同伴』と名付けることができるのに。

それくらい、私は勤勉に働いてお金を稼ぎ、経済を回すためにお金を使ってきた。嬢につぎ込んだお金は、六本木のペットショップで軽くポメラニアン3匹を買えるくらいにはなっているはず。にもかかわらず、一向に、いっこうに、IKKOに。嬢の愛を手に入れることができないではないか。

あの日だって、そうだった。散々ドリンクを飲んでおきながら、とくに私にクリプレをくれるわけでもない、嬢サンタ。出口で私を見送ると、ほどなくしてLINEが来た。

「今日は、ありがと! アセちゃんは、私だけのサンタさんだよ♡メリークリスマス」

正直、嬉しい。思わず、顔がほころぶ私。

いや、ダメだダメだ。バカ、バカ、私のバカ。いつもこんな風に弄ばれているだけじゃないか。

私は、キャバクラのおもちゃじゃない。私は、嬢のおもちゃじゃない。男は黙って喋らない。

私は、追いすがるマスコミを振り切ったあの日の千昌夫のようにそう叫ぶと、「嬢、涅槃で待つ」と書置きをしたため、上野発の夜行列車に乗り込み、逃げるように実家へと向かった。

そして、2019年の年明け。もう、キャバクラにはいきません。仏壇に向かい、ご先祖様にそう誓った私。これからは、貯蓄を重ねて慎ましく生きるのだ。

東京へと戻る夜行列車まで、しばし時間があった。私のポケットには、父親(80代前半)からもらったお年玉のポチ袋。中を見てみると、3万円が入っていた。なんという、親心。せめて、生まれ故郷の繁華街で、キャバクラ卒業を迎えてほしい。そんな父の願い、思い、祈り。私には、受け止めることができた。ありがとう、父。

そうだ、地元のキャバクラに、行こう。そして、この支配からの、卒業。戦いからの、卒業。キャバクラからの、卒業を飾るのだ。

私は、盗んだバイクで走り出すと、地元の繁華街を一周した。いくつかのキャバクラの店頭の様子を探り、目を付けた呼び込みのボーイに声をかけた。

粘り強いネゴシエイトの末、60分セット、サービス税等コミコミで5,000円という、22時台としては破格の条件を勝ち取り、私は、キャバクラ「キャンドル」に入店した。

店内は奥行きがあるものの、幅が狭く決して広くはない。質素なテーブル、ソファー。薄暗い照明に、気分が沈む。どうやら、私の他にお客さんは一組しかいないようだ。

これは、失敗、したのかもしれない。きっと、ろくな嬢がいないに違いない。そうだ、60分をなんとか乗り切って次の店へと行こう。そう、私は、キャバクラをさまよう、異邦人。

「こんばんはー」

そんな私の前に、最初の嬢がやってきた。

「こっちに座って、いいですか?」

丁寧に断って、私の左隣に座る、嬢。私は、隣のスペースを空けて座り直し、その姿を見た。

セミロングの黒髪、クッキリ二重まぶた。デコルテ露わなドレス、そして巨乳。

「アキって言います。よろしくお願いします」

私は、秒で、場内指名を決めた。

〜シーズン3 第13回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第6回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第7回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第8回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第9回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第10回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第11回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第12回

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※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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