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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第15回

StoryWriter

入店してから、1時間。

歌舞伎町で35,000円はするキャバクラのお会計が、地方都市では、たった7,000円。

私は今、日本経済の理不尽さを痛感すると共に、地方再生のカギはキャバクラにあるという確信をもって、アキちゃんを再び場内指名して1時間の延長をコールした。

「いつも、ひとりでキャバクラ遊びしているの?」

延長を決めたせいか、アキちゃんは本腰を入れて、私についてdigる姿勢を打ち出してきた。

「普段は、どんなお仕事してるの~?」

アキちゃんが知りたいのであろう、普段の私。そう、花の都大東京で、派遣社員として働く私。

地方都市のキャバ嬢であるアキちゃんにとっては、もしかしたらそんな私でさえ、六本木純情派に見えてしまうのかもしれない。

20歳になったばかりで、好奇心旺盛、花の子ルンルンなアキちゃん。きっと、私をIT系ベンチャー企業の社長か、都内でカフェ等を手広く経営している青年実業家だと思っているに違いない。

答えは、NO。私は、東京都新宿区で働く、日給8,500円の男。

「なんか、結構仕事できそうな感じするよね」

私の心を、巧みにくすぐるアキちゃん。私の自尊心は、思わぬポテンシャルを伴う言葉となって、口をついて出た。

「えっうそ!? プロデューサーなの? マジすごい」

謎のワード「プロデューサー」。

私は、とっさに口から出た言葉に、自分自身が戸惑っていることを感じた。私は、いったい何をプロデュースしているというのか。内村プロデュースを毎週欠かさず観ていたことが、あだとなったのかもしれない。

「ていうか、プロデューサーさんって、大変?」

ざっくりとした知識で、懸命に話を広げようとするアキちゃん。無理もない。地方では、人口20万人以上の都市に1名のプロデューサーのみが生息すると言われている(※アセロラ4000調べ・2018年12月時点)。本物のプロデューサーに会ったことがないアキちゃんが戸惑うのも頷ける。

というか、そもそも私はプロデューサーでは、ない。

「ねえねえ、GENERATIONSで誰が一番性格い~い?」

何も言っていないのに、何かしら芸能人と会える仕事をしているプロデューサーとして認知された私。しかも、GENERATIONSって、なんだ。しかし、もう後戻りはできない。

私は、とりあえず適当な名前を出して、難を逃れるいつもの手に出た。

「えっマーシーって誰?」

一瞬、沈黙が流れる「キャンドル」の店内。しまった。マーシーって大抵どのグループにも1人は必ずいるものじゃないのか。私をまじまじと見つめる、アキちゃん。

「もしかして、今度加入する新メンバーのこと? マジヤバいんだけど!」

声を押し殺しながら、グッと身を乗り出し私の耳元で囁くアキちゃん。

澄んだ瞳、雪のように白い肌。ツヤツヤの唇、そして巨乳。

その表情は、純真無垢そのもの。私は、プロデューサーになりきることを決めた。

すべては、アキちゃんの、ため。

「興奮して喉乾いちゃった! 喉が川合俊一~!」

20歳の、オヤジギャグ。嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ

私は、すぐにドリンクをすすめた。次々と、堰を切ったようにドリンクを注文しては、飲み干していくアキちゃん。この光景、どこかで見た。

ヤバい。また、嬢のドリンクにより高額なお会計を払うはめになるかもしれない。そんな危機感が頭をよぎったと同時に、ボーイが延長時間の終了を告げた。

恐る恐る、お会計の伝票を覗く私。

基本料金:5,000円
場内指名料:2,000円
延長料金:9,000円
キャストドリンク代:1,000円×5杯
合計:21,000円

5杯も飲ませたのに、2時間でこの金額。しかも、普通こんな風に詳細をお会計に書き表していることなど、ない。絶対に歌舞伎町ではありえないお会計票が、ここにある。

私は、「キャンドル」のあまりの激安の殿堂ぶりに感動した。ここは、ガンダーラ。永遠のユートピア。ユートピアといっても、ゴムパッチンのユートピアでは、ない。

「ねえねえ、今度さ、東京に遊びに行ってもイイ?」

思わぬ、アキちゃんからの積極的なアプローチ。もちろんイイに決まってる。地元のキャバクラで、まさかこんなモテが待っているとは。あまりの喜びに、思わず初期の海原雄山ばりに高らかに笑い声を上げる私。

「嵐に、会わせてくれるんだよね?」

……そんなこと、言って、ない。

「さっき、友だちにLINEで伝えたら、ヤバい! って超アガってた。あげみざわ!」

無垢な瞳で、私を見つめる、アキちゃん。

私は無言でコクリと頷くと、店を、出た。

〜シーズン3 第15回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第6回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第7回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第8回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第9回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第10回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第11回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第12回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第13回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第14回

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※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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