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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、19回目も発達障害に関する絵本で『ありがとう、フォルカー先生』(パトリシア・ポラッコ作・絵/香咲弥須子約/岩崎書店)です。これは限局性学習症(SLD)・学習障害(LD)の女の子が主人公のお話です。

限局性学習症は、知的な遅れがないのに「読む」「書く」「計算する」などの、ある特定のことがうまくできません。例えば読むことに困難がある場合、文字が滲んで見えたり、揺らいで見えたり、左右逆さまに見えたりという困難があったり、形の似た字を間違えたり、どこで区切って読めば良いのかわからなかったり、ということがあります。こうした困難に対して「やる気がない」「努力していない」などと批判されてしまうことがありますが、決してそんなことはありません。そのように扱われてしまうことで当事者は多大なストレスを感じて、生きづらくなってしまいます。

小児期に生じる特異的な読み書きの障害は発達性ディスレクシアと呼ばれますが、アルファベット語圏では3〜12%、日本では、小中学校対象に行われた2012年の調査で4.5%存在することがわかっています。クラスに1〜2人はいるかもしれないと考えると、決して遠い話ではありません。

最近では、異なった学習アプローチをとるという点から、Learning Differences(学び方の違い)と呼ぶ人もいます。この絵本の後書きで日本LD学会会長であった上野一彦さんは「勉強面のどこかに苦手な部分をもつのですが、それはできないというより、みんなとはちがったやり方でないとあたまのなかに入りにくい、といった特徴なのです」と書かれています。

この絵本のフォルカー先生は、女の子の得意なところをちゃんと見ていて、苦手なところを本人にあったやり方で、ゆっくりと教えていきます。結果、彼女は自信を取り戻し、できるようになっていき、ついには…… ここからは秘密です(笑)。最近では学習にタブレット端末を使用することで、困難を克服した事例なども多々あります。人はひとりひとり違う、だからその違いを活かして、それぞれにあったやり方を見つけていくことが大切なのでしょう。そしてそれは、学習ということに限ったことではなく、皆が生きやすく生きていくためにもとても重要なことなのだと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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