【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)

数々のヒット曲で知られるマルーン5のボーカル、アダム・レヴィーンは、自身がADHD(注意欠陥・多動性障害)であるということを公表しています。彼は10代の頃にADHDであると診断され、それ以来自分のこの特質に主治医とともに対処してきたそうです。

 

その他に、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムもADHDであると発言しています。

ADHDとはどのような特徴があるのか、これまでにも何度か出てきました精神疾患の世界的診断基準のひとつであるDSM-5から確認してみます。

■注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)

不注意や多動性・衝動性が特徴で、それぞれ以下の症状のうち6つ以上(17歳以上では少なくとも5つ)があてはまる

【不注意】
(a) 学業・仕事などで綿密に注意できず、不注意な間違いをする
(例)細部を見過ごす、作業が不正確
(b) 課題・遊びの活動中に、注意を持続できない。
(例)講義・会話・長時間の読書に集中し続けられない
(c) 直接話しかけられたとき、聞いていないように見える
(d) 指示に従えず、学業・用事・職場での義務をやり遂げられない。(すぐに集中できなくなったり、脱線してしまったりする。)
(e) 課題や活動を順序立てられない。
(例)資料や持ち物の整理ができない、作業が乱雑でまとまりがない、時間管理が苦手、締切を守れない等)
(f) 精神的努力の持続を要する課題(学業や宿題、報告書の作成、書類に漏れなく記入する、長い文書を見直すなど)を避ける、嫌う、いやいや行なう
(g) 必要なものをしばしばなくしてしまう
(h) すぐに気が散ってしまう
(i) 忘れっぽい

【多動性・衝動性】
(a) しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたり、椅子の上でもじもじする
(b) 席についていることが求められる場面で席を離れる
(c) 不適切な状況で走り回ったり高いところに登ったりする(青年・成人では落ち着かない感じのみに限られるかもしれない)
(d) 静かに遊んだり余暇活動につくことができない
(e) じっとしていられない。
(f) しゃべりすぎる
(g) 質問が終わる前に出し抜いて答えはじめてしまう。他の人の言葉の続きを言ってしまう。会話で自分の番を待てない。
(h) 順番を待つことができない
(i) 他人を妨害、邪魔する(会話・ゲーム・活動など、他人の活動に干渉する、相手に聞かずに人の物を使ってしまう、など)

これらの特徴が、「本人の努力が足りないせいだ」とか「育て方が間違っている」「しつけがなっていないからだ」とか、「怠け者」「だらしない」などと言われてしまう誤解を生じがちです。これらの特徴は、前回の自閉スペクトラム症同様に、生まれながらの脳の機能的な原因によります。

マルーン5のアダム・レヴィーンは、初のアルバム制作のころ、頭の中にアイデアがたくさん湧きすぎて、それをどのように形として完結させるかがわからなかったと本人は言っています。つまり、身体や行動だけでなく「頭の中も多動」だということです。

また、ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムは自分の頭の中の多動性を「止める方法がない」「学んだことは、注意をキープすることや、じっと座っていることができないということだ」と語る一方で、「しかし、それらの特徴は、スタジオでクリエイティブなアイデアを話し合うのには良いんだ」と、それを長所に転換できていると言います。そして「君が僕の書いた曲を聴けば、それがADHDソングだってわかるよ。1曲の中に5つのフックがあって、それが3分間の中で全部出てくるんだから」と、自身の曲について解説しています。

 

 

このように、自分の特性と上手く付合うと、それが良い方向に作用することもありえます。また、彼は「もし違う職業に就いていたら、生き残れなかっただろう。音楽は自分に取ってセラピーであり拘束衣でもあるんだ。音楽は自分を正気にさせ、集中させてくれる。音楽は自分の考えをコントロールしてくれるんだ」とも語っています。このように、何らかの特性が活かされたまま音楽と共存できて、それが良い作品を創ることにも繋がっていくことは、とても素晴らしいことです。彼のように才能の豊かなアーティストだけでなく、自分がより良く生きていくための特性の活かし方と、そのための周囲の理解がもっと広がっていくことを望みます。


Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!
Vol.4 うつ病と双極性障害
Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない
Vol.6 「人はどこまで環境に左右されず意思決定できる?」
Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる
Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!
Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法
Vol.10 LGBTについて LGBTと音楽
Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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