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【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第12回

StoryWriter

私は、キャバ嬢が嫌いだ。

嬢は、幼稚で礼儀知らずで、気分屋でないものねだり。

心変わりと、出来心で出来ている。

甘やかすとつけあがり、ほったらかすと悪乗りする。

私は思うのです。この世の中から、キャバ嬢がひとりもいなくなってくれたらと……。

「アセさん、なんすかその歌!?」

2019年。東京・新宿西口のカラオケ店。

私は、新年初の派遣仕事の帰りに、サカイくん、エトウさんとのトリオ・「歌舞伎町グーニーズ」(通称・おじさんたち)で、激安居酒屋で酒を飲み、珍しくカラオケに来ていた。

伊武雅刀「子供達を責めないで」の歌詞を替えて熱唱する私を、ポカンと口を開けて見ているサカイくん。

サカイくんは、最近彼女ができたらしく、私たちとキャバクラに行くことをためらうようになってしまった。

だが、それでいい。

キャバクラなど、行かない方が良いのだ。

あんな馬鹿げた文化など、次世代に繋いではならない。東京オリンピックが開催されるまでに、一掃されるべきではないだろうか。海外からのお客さまが大挙して訪れるオリンピックに於いて、キャバクラという日本固有の文化と、キャバ嬢という遊星からの物体Xが存在することが知られてしまえば、全世界に向けて日本の恥部を晒すことになりかねない。

だから、私は、キャバ嬢が嫌いだ。

派手なつけまつげ、クルクルに巻いたセクシーなヘアスタイル。艶やかなドレス、そして巨乳。

ダメだ、ダメだダメだ。私は、2018年でキャバクラとおさらばしたのだから。

いまいましい、2018年、Xmasの、記憶。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どれに、しよっか?」

繰り返し、私にシャンパンを入れることを迫る、エリカ嬢。

しかし、メニュー表に書かれた価格は、まったく市場価格を無視した、ビックリ日本新記録な数字ばかり。最低価格30,000円からのシャンパンなど、頼めるわけが、ない。

「どうしたの、アセちゃん!? 具合が悪いのかな?」

そっと、私に寄り添うエリカ嬢。ドレスから出た二の腕が、ぷにぷに当たる。これはこれで、嬉しい。しばし、具合が悪いフリをする私。

「もしかしたら、あんまりシャンパン、得意じゃない感じ?」

そう言って、私の顔色をうかがう、エリカ嬢。

私は、じっと、黙っている。そう、まるで健さんのように。まだ、ぷにぷにしていたい。こんなにも気持ち良いぷにぷにチャンスを、逃したくは、ない。ナウ・ゲッタ・チャンス。私の中の伊東四朗が、そう叫んだ。

「じゃあ、今日はシャンパン、やめとこっか?」

そう言うと、メニュー表をパタンと閉じるエリカ嬢。

もしかしたら、これはエリカ嬢なりの優しさなのかもしれない。

アセに、恥をかかせるな。

エリカ嬢の良心が、そう呟いた気がした。ありがとう、嬢。持つべきものは、友情ではなく、嬢なのだ。

「でもうち、鏡月苦手だから、ドリンク頼んでいい?」

もちろん、いいに決まってる。シャンパンを頼むくらいなら、一杯1000円程度のドリンクを飲ませている方が、お財布に優しいのだから。ボーイに、何やら洒落たグラスに入った飲み物をオーダーする嬢。

「イエーイ! メリークリスマス!」

グラスを合わせる、嬢サンタと私。

よかった。今そこにあるシャンパン・クライシスを回避した私は、心からくつろぎ、時の経つのも忘れ、何度も嬢と乾杯した。次から次へと、謎のドリンクをおかわりする、嬢。その姿を、見守る私。「ガラスの仮面」でいえば、今の私は、紫のバラの人。

ときにアツく、ときにユーモラスに。そして、時には娼婦のように。嬢は、私に語り掛ける。2人だけの時間が過ぎて行き、延長を経た1時間半後、お会計の時間。

「56,000円です」

そんな、バカな。

ボトルが入っているにも関わらず、たった1時間半で、この価格。ジャパネットたかたでも、こんな金額は見たことが、ない。

「ごちそうサマンサ、だぞ」

酔った嬢が、いつもと違う様子でダジャレを口にする。

嬢は、いや、こいつは。いったいいくらのドリンクを飲んでいたのか? 内訳は、まったくわからない。しかし、どう考えても、嬢のドリンクがなければ、安上がりで済んでいたはずなのだ。

してやられた。私は、シャンパン危機を回避できた喜びに浸りすぎ、嬢のドリンクを許可してしまったことを後悔した。

「ごちそうさまー!」

お会計を済ませると、素になり、すかさずグラスを合わせて、席を立つエリカ嬢。余韻に浸る間もなく、私は、入り口まで見送られ、師走の歌舞伎町に放り出された。

寒空の下、身ぐるみを剥がされた気分で、よろめきあるく私。所持金は、244円。終電間際。ギリ、電車には、乗れるかもしれない。

下水道から、ネズミがこちらを見ている。私を、憐れんでいるかのように。

「チュウ」

ネズミが、私に告げる。2018年が、終わった。

〜シーズン3 第12回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第6回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第7回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第8回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第9回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第10回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第11回

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※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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