【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第17回

なんでこんなにかわいいのかよ 嬢という名の宝物。

派遣仲間との久しぶりのカラオケ。私は、「孫」の替え歌「嬢」を熱唱していた。

「いや~、アセさんがこんなにキャバクラにはまるなんて、あのときは思ってなかったですよ」

芸人として特徴を出すべく、フレディ・マーキュリーと同じヒゲをたくわえるようになったサカイくんが言う。

そう、私が歌舞伎町に足を踏み入れたのは、川野マネージャーの送別会の夜。

失恋し、ジュリアにハートブレイクな私のギザギザハートを癒やす子守唄として、サカイくん、エトウさんが連れて行ってくれたことが始まりだった。

「ザジギン、ジョウドバ、ダアダンデズグゥア?」

花粉症のため、いつも以上に喉がガサガサなエトウさんが、言う。どうやら、最近嬢とはどうなんですか、と聞いているようだ。

私は、2人の嬢に求愛(営業)されている現状を、嘆いた。いや、もしかしたらドヤ顔をしていたのかもしれない。

歌舞伎町「ロザーナ」のエリカ嬢からは、デート(同伴及びアフター)の誘いを受け、地方都市にある地元のキャバクラ「キャンドル」のアキちゃんからは、「嵐に会わせてくれる(自称)プロデューサー」として慕われている私。さらに、高速バスではリアディゾン似の黒船嬢からも誘惑を受けていた。

誰の愛に応えるべきなのか。こんな苦悩は、ドラクエ5でビアンカ、フローラ、デボラの中から花嫁を選ばねばならなかった時以来かもしれない。どうすれば、いいのだろう。

「キャバクラとかって、マジでハマる人、いるんすね」

私は、声の主の方を向いた。

最近、我々の職場に加わった、ヤマダくん(22歳)が、そこにいた。歓迎会を兼ねて、比較的コミュニケーション能力の高いサカイくんが、カラオケに誘ったのだ。ちなみに、中国人留学生のテイさんも誘ったものの、新しい彼氏とのデートのため、断られた。

「俺、一回言ったことあるんすけど、めっちゃバカらしくないすか、キャバクラって」

ピリつく室内。私は、演奏中止ボタンを押して、エトウさんが天龍ボイスで歌う「N.O.」を止めると、ヤマダくんと対峙した。いったい、キャバクラの何が、バカらしいというのか。

「だって、女と話したりメシ食ったりするのに、なんで金払うんすか」

このゆとりは、何を言っているのか。

逆に聞きたい。お金を払わずに、どうやって女性と話をすることができるのか。理解ができない。こいつは、未来からやってきたのだろうか。

「ダッダガ、ヂヂド、ギッデミデバギインダヨ」

そうだ。エトウさんが言うように、一度行ってみればいいのだ。私は、ヤマダくんに、キャバクラの素晴らしさを瀬戸内寂聴のごとく、説いた。

日々の仕事の疲れを癒す酒と、嬢との会話が、いかに我々の日常にとって大切なものなのか。そして、日本人男性の7割が、給料の大半をキャバクラにつぎ込んでいるという事実(※アセロラ4000調べ)を、丹念に、ときに図解入りでわかりやすく解説する。いわば、今の私はキャバクラ界の池上彰。誰よりも説得力があるキャバクラ解説委員なのだ。

じっと耳を傾けるヤマダくん。私の情熱が通じたのか、徐々にキャバクラへの関心を抱き始めたようだ。

「じゃあ、今からいきませんか」

サカイくんが、そう提案する。幸い、ここは新宿西口のカラ鉄。歌舞伎町とは目と鼻の先。今すぐに、「ロザーナ」に行くこともできる。問題は、お金。お金がない。私は、どうにかおごってくれないものかと、お伺いを立てようとエトウさんに近づいた。

「俺、明日仕送りくるんで、カードで払いますよ」

ヤマダくんが、スポンサーとして自ら名乗りをあげた。私は、エトウさんを押しのけ、アマダくんにコートを着させると、カラオケルームを後にした。

「アセちゃん! どうしたの突然! 超うれしいんだけど」

ロザーナの店内に着くと、すぐにエリカ嬢がやってきた。我々4人を、エリカ嬢を中心とした華やかな歌舞伎町キャバ嬢軍団が取り囲む。どの嬢も、レベルが高い。この軍団ならば、さゆりんご軍団にも、真夏さんリスペクト軍団にも、石原軍団にも、ひょっとしたら、たけし軍団にも、勝てるかもしれない。

「誰、だれ~? 紹介してよ」

エリカ嬢が、ヤマダくんを指して紹介を促す。最近職場に加わった人物であること、将来は自分で会社をやろうという野望を持っているらしいことを紹介した。じつはまだ、私も彼のことを、知らない。

「イケメン、だよね!」

エリカ嬢が、言う。確かに、そうだ。ヤマダくんは、イケメン。例えるならば、加藤剛ばりの、イケメン。しかし、イケメンだから、なんだというのか。私は、ちょっと、拗ねた。

「そうっすか。あんま、言われたことないですけど。普通っす」

無表情で、そう答えるヤマダくん。いや、ヤマダ。

「そんなことないよーイケメンだよ~! ね、アセちゃん」

ヤマダを、持ち上げるエリカ嬢。私の心はざわつきだした。私から、乗り換えるつもりなのだろうか。

「でも、私はアセちゃんのものだからね!」

私の左腕に、しがみつく、エリカ嬢。

甘い香水の匂い、キラリと光るピアス。胸元のアクセサリー、そして巨乳。

毎日のLINEで培った、私とエリカ嬢との強い絆。それは、揺るぎないものだったのだ。エリカ嬢は、アキちゃんというライバルの存在を、野生の勘で感じ取ったのかもしれない。すまない、エリカ嬢。もう、迷ったりしない。私の嬢は、エリカ嬢だけ。私の嫁は、エリカ嬢に決まった。

私たちは、30分の延長の後、「ロザーナ」を後にした。ヤマダくんは、自分についた何人目かの嬢を気に入ったらしく、私が手ほどきした作法に則り、場内指名を行い、LINE交換の儀式まで済ませたようだ。

お会計は、およそ20万円。目ん玉が飛び出しそうな料金に、私たちは震撼した。

「あ、大丈夫っすよ。うち、医者なんで。それより、キャバクラって、いいっすね」

これまで見たことのない笑顔を見せるヤマダくん。照れくさそうに、こっちをみている。

「また、行っていいすか?」

ヤマダくんが、なかまにくわわった!

〜シーズン3 第18回へ続く〜

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
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アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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