【連載】アセロラ4000「嬢と私」シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第19回(最終回)

春、卒業シーズン。別れの季節。

この数ヶ月、歌舞伎町キャバクラという世界最高峰の学び舎に通いつめ、嬢という教師に教えを乞うてきた私。仰げば尊し キャバ嬢の恩。いったい、嬢たちはどれだけの幸せを私に与えてくれただろうか。

そこには、いつしか仲間が集まり、私の日常はキャバクラ版ドラゴンクエスト、もしくはキャバクラ版里見八犬伝と化していった。

エトウさん、サカイくん、ヤマダくん、そして私。

その冒険譚は、映画「スタンドバイミー」を思わせるおじさんたちの青春ストーリー。いうなれば、私は日本版リバー・フェニックス。心に傷を抱えながらも強がる主人公と自分をオーバーラップせざるを得ない。

そして今、新元号「麗羽」いや、「令和」へと時代は移り変わる。もう、夢見る少女じゃいられないのだ。

私は、今ここに、歌舞伎町キャバクラからの卒業を宣言する。

なぜならば、金が、ない。

歌舞伎町キャバクラの相場は、以下のような内訳になっている。

フリーセット料金:10,000円
指名料:3,000円
場内指名料:2,000円
ボトル:8,000円~
嬢のドリンク代:謎
サービス税:25%

アキちゃん所属の地方都市のキャバクラでは、この半値近くで楽しむことができた。何しろ、嬢のドリンク代が一杯1,000円だったのだから。それに引き換え、歌舞伎町の嬢のドリンク代は、いまだに謎。謎価格が故、嬢にドリンクを頼まれてしまう恐怖に常に怯えていなければならないのだ。さらに謎のサービス税。歌舞伎町キャバクラという、治外法権国家に、下心というパスポートを取り上げられた私が、いる。

「アセちゃ~ん、こんどいつ来れる?」

毎夜毎夜、借金取りのごとく来店を促すエリカ嬢のLINE。整形後の顔を見てほしい、というフランケンシュタイン博士的な役割での招待に、震える私。

その都度、仕事が忙しい、身内の不幸、水のトラブルでクラシアンを待ってるから無理、といった理由を挙げて断り続け、数週間。

ある日、エリカ嬢がLINEでこう言った。

「新しい店探してるんだよね~」

そうか、ならば話は早い。「ロザーナ」はもういい。エリカ嬢が移籍した店が歌舞伎町でなければ、きっとそこまでの予算がなくても、遊べるに違いない。

私は、想像を膨らませた。新天地での嬢の活躍を見届けるため、出勤初日で緊張している嬢の前に現れる私。

「うそでしょ、来てくれたんだ!? しかも初日に? 泣けるんだけど」

喜び、先客を差し置いて、私に抱きついてくるエリカ嬢。

艶のあるヘア、いくつも空いたピアス。綺麗なデコルテ、そして巨乳。

妄想から目を覚ました私は、思い切ってLINEでエリカ嬢に、移籍先への来店を告げた。

「えっそういうのマジ困るんだけど」

予想外の、反応。

「今いる店に、まず来てほしいし」

なんという、強欲な、嬢。

私は、舞台稽古中の蜷川幸雄ばりに、スマホを放り投げた。敵は、本能寺にあり。いや、嬢は、敵ではない。しかし、私の中で、エリカ嬢は今や伝説のクソゲー「燃えろ! プロ野球」と同じくらい、二度と触れたくない存在になってしまった。

何度目かの、卒業。この支配からの、卒業。戦いからの、卒業。

私はスマホを広い、エリカ嬢への別れを告げ、LINEをブロックした。

さようなら、(歌舞伎町の)嬢。ありがとう、(歌舞伎町の)嬢。

「おはよー! こっちは良い天気だよ! 東京は、どんな感じ?」

地方の嬢、アキちゃんからの、LINE。今や、毎日の日課となっている。

そう、歌舞伎町を離れたら、こんなにもフレンドリーで優しい嬢がいるのだ。私は、泣いた。日曜洋画劇場で「チャンプ」を見て以来の勢いで、泣いた。そして、ゴールデン洋画劇場で「超能力学園Z」を見て以来の勢いで、己を奮い立たせた。

そうだ、私にはタラがある。いや違った、私にはキャバがある。明日は明日の風が吹くのだ。

さようなら、歌舞伎町の嬢たちよ。

ショー・マスト・ゴー・オン。行こう、まだ見ぬキャバクラの世界へ。

私は、一万円札を握りしめ、家を、出た。

 

〜シーズン3「嬢と私」~歌舞伎町ニューウェーブ編 完〜

※次回から、アセロラ4000「嬢と私」シーズン4 ~キャバクラ放浪記編~がスタートします。お楽しみに!

シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第6回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第7回
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シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第18回

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※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。

アセロラ4000(あせろら・ふぉーさうざんと)
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000

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