こんにちは、テラシマユウカです。
去年の11月下旬から始まったこのコラムも早いもので第20回目。
読んで下さっている皆さん、いつもありがとうございます!
これまで色々な方に好きな映画を聞き回ってきましたが、今回はキリが良いと言うことで最近私の中でアツいオススメ映画をご紹介します。
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コラムで長々と書きたい作品がありすぎて凄く悩んだのですが、特に何度も繰り返し観たいと思った作品を選びました。
是非観てみてください…!
Vol.20『少年は残酷な弓を射る』
トマティーナの夢を見ていたエヴァが目覚めると、家の外壁には真っ赤なペンキがぶちまけられていた。アルコールと向精神薬が手放せない彼女には、夫と息子と娘がいて、充実した仕事もある、幸せな日々があった。今では安月給のパートで一人暮らし、外を歩けば罵られ、立派とは言いがたい自宅に嫌がらせをされる毎日。
そんな日々の中、エヴァは過去を思い返していた。まだ入籍していなかったフランクリンと一夜を共にし、子供を授かるエヴァ。しかし、母親になる覚悟も自覚も愛情もないまま、膨らんでいくお腹を嫌悪する日々。そして生まれた息子ケヴィン。エヴァがどれだけあやしても泣き止まないのに、夫フランクリンには懐く幼い息子。日々の苛立ちを隠せないエヴァは、あなたが生まれるまではママは幸せだった、と口走る。
4歳なったケヴィンは、まだオムツが取れない。嫌がらせのようにお漏らしをするケヴィンを、思わず壁に放り投げて骨折させるエヴァ。その後、エヴァは妊娠してケヴィンに妹セリアが生まれる。思春期になったケヴィンは、エヴァに対してあからさまな嫌がらせをするが、フランクリンの前では良い子を演じるのをやめない。セリアが怪我をして片目を失う事故をきっかけに、夫婦の間では離婚話が持ち上がる。
そして16歳の誕生日の直前、ケヴィンは学校の体育館に生徒を閉じ込め、弓矢を放つ。それは多数の怪我人、死者も出す事件で、ケヴィンが逮捕される瞬間を見たエヴァは急いで自宅へ向かう。フランクリンとセリアは、体に何本もの弓矢が刺さった状態で、庭で息絶えていた。
それから2年、刑務所にいるケヴィンへの面会を続けるエヴァ。「どうして?」と尋ねられるケヴィンは「わかっていたはずなのに、わからなくなった」と複雑な顔で答える。そんな息子を抱きしめる母親が、そこにいた。
素晴らしく好みな鬱映画でした。美少年が好きな方には特にオススメしたい。内容は重いですが個人的には目の癒しでした。
ライオネル・シュライヴァーの同名小説の映画化。我が子を愛していたはずの母親エヴァ(ティルダ・スウィントン)と、母親の愛を拒絶し続けていた少年ケヴィン(エズラ・ミラー)の物語であり、小説は殺人を犯した少年の母親が彼女の夫に宛てた手紙という形式で彼女の一人称視点で物語が語られるという独特な書かれ方をしています。
映画ではエヴァ視点や第三者視点から描かれていて、ケヴィン側の視点が無いことによって何を考えているかわからない、ミステリアスで不気味な人物像に拍車をかけています。
そんなケヴィンを演じたのは私のイチ押し、エズラ・ミラー。最近では『ファンタスティック・ビースト』にクリーデンス役として出演しています。ケヴィンを演じるエズラはとにかく美しく中性的で観ているとドキドキが止まりません。母を挑発する鋭い眼差しには思わず息を飲んでしまいます。
母親エヴァ役のティルダ・スウィントンは『ナルニア国物語』の白の魔女の強いツンとしたイメージがあったのですが、それとは打って変わって負のオーラ漂いまくる役もとても素晴らしかったです。狂気的な息子に悩まされる母親ですが、たまに似たものを感じる場面もありゾクっとしました。
面会中のケヴィンは爪を噛んで机に並べ、エヴァは食べてしまった卵の殻を並べるといったシーンがあり、結局は似た者同士だという事が印象的に描かれています。親子役にしっくりきすぎている2人の姿は並ぶだけで不気味に見えます。
そして、冒頭シーンから強烈なインパクト。
大勢の人間がもみくちゃになりながらトマトを投げ合うお祭り、トマティーナで街中が真っ赤に染まります。
赤が印象に残るシーンが多く、エヴァが受ける嫌がらせは家や車に赤色のペンキをブチまけられていたり。妹セリアがクリスマスプレゼントに貰ったハムスターが排水溝に詰められていたと思った瞬間、切り替わるとエヴァが真っ赤に染まった手を洗っていたり。最後にはパトカーのサイレンの赤など、あらゆる場面で印象的な赤が使われています。
直接的な血の表現を使わず、色で連想させる事によって更にケヴィンの怖さを強めている気がしました。
時間軸が交錯し、初めは何が起きたのかイマイチ把握しきれずに進んでいきますが見ていくとひとつにまとまっていき、話の筋が見えてきます。かなり複雑に時間軸が描かれていますが、言葉の説明無しに把握できる構成は純粋に凄い。
『少年は残酷な弓を射る』というタイトルは比喩かと思いきやそのまんまで、この邦題には賛否両論あるそうですが私はこのタイトルを見て映画を観たくなったので好きでした。
そしてエズラの弓を射る姿がとんでもなく美しいのでそこにも注目して頂きたい。
結局最後まで殺人を犯した真相を明確にはしてくれませんが、刑務所にいるケヴィンへ面会に来たエヴァが事件に関して尋ねると、「わかってるつもりだった、でも今は違う。」と以前の様な目つきの鋭さの無い複雑な顔で答えます。そんなケヴィンを抱きしめるエヴァ。最後まで殺した真意は分からないまま終わってしまいますが、この結末に関しては人それぞれの解釈ができると思います。
ハッキリとした真相も登場人物の心情も分からないので、後味が悪いのかどうかも分からなくなるけどずるずると心が引きずられる、そんなもどかしい部分があるので個人的にとても好きでした。
兎にも角にもエズラ・ミラーの狂気的で危うげな美しさにひたすら魅せられ、更にどっぷりとハマってしまう作品でした。
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次回は、StoryWriterで「なにが好きかわからない」を連載されているエビナコウヘイさんオススメの映画をご紹介します。
それでは、また来週〜!
※「それでも映画は、素晴らしい。」は毎週火曜日更新予定です。
【連載】Vol.1『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』(推薦者:テラシマユウカ)
【連載】Vol.2『ライフ・アクアティック』(推薦者:渡辺淳之介)
【連載】Vol.3『そこのみにて光輝く』(推薦者:ココ・パーティン・ココ)
【連載】Vol.4『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(推薦者:沖悠央/SCRAMBLES )
【連載】Vol.5『ライフ・イズ・ビューティフル』(推薦者:GANG PARADE マネ 辻山)
【連載】Vol.6『ヘアスプレー』(推薦者:花柄ランタン ぷき)
【連載】Vol.7『はじまりへの旅』(推薦者:ランタン 村上真平)
【連載】Vol.8『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(推薦者:松隈ケンタ)
【連載】Vol.9『シカゴ』(推薦者:ユイ・ガ・ドクソン)
【連載】Vol.10『トイ・ストーリー3』(推薦者:T-Palette Records 古木智志)
【連載】Vol.11『青春の殺人者』(推薦者:岩淵弘樹)
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テラシマユウカ
2014年に結成され、現在9人組として活動中のアイドル・グループGANG PARADEのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。