産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、20回目は『<叱る依存>がとまらない』(村中直人著/紀伊國屋書店)です。以前紹介した『ニューロダイバーシティの教科書』と同じ先生の、つい先日出版されたばかりの本なのですが、届いたその日に一気に読んでしまいました。それだけでなく妻にも「ぜひ読んでみて」と渡したら、妻もその日のうちに一気に読んでしまいました。ちなみに僕は付箋をつける習慣はないのですが、妻は付箋を貼るタイプでして、すっかり付箋だらけになって返ってきました(笑)。そのくらい読みどころが多く、そしてすごく読みやすくわかりやすく書かれていますので、何らかの形で誰かを育てる立場にいる人には本当にお勧めします。
まず冒頭で「こんな台詞を聞いたことはないでしょうか?」と問いかけられます。
「最近は、きちんと叱れない人が増えていて問題だ」
「叱ると怒るの区別がついていない人は、困ったものだ」
「真剣に叱ることが大切なのに、甘やかしてしつけを放棄する人がいる」
こういう言葉は良く耳にしますし、「叱らなければきちんと育たない」という考えを持っている人も少なくないと思います。あるいは、「叱っちゃいけないというのはわかるけれど、叱らないと伝わらない、叱らずに済ますことなんて無理」ということもよく言われることかもしれません。しかし本書では「叱る」ことは人を育てるということにおいて単純に効果がなく、その割に副作用が大きいということを、脳科学や認知科学の確かな知見に基づいて、丁寧に説明していきます。ちなみにここでは「叱る」ということを次のように定義しています。
言葉を用いてネガティブな感情体験(恐怖、不安、苦痛、悲しみなど)を与えることで、相手の行動や認識の変化を引き起こし、思うようにコントロールしようとする行為。
ネガティブな感情を強く感じる時、人は「防御システム」が活性化されます。しかしその防御システムは、人の学びや成長を支えるシステムではありませんし、むしろ反対に知的な活動に重要だと考えられる脳の部位の活動を大きく低下させることがわかっているのだそうです。
それでもなぜ人は叱るのか、「叱る」という行為はどういうことなのか。その仕組みを解き明かしながら、叱るという行為に依存してしまう依存症に似たメカニズム、児童虐待、DV、パワハラ、日本社会にありがちな「厳罰主義」「理不尽に耐えること」「立ち直りと成長の支援が足りない日本の刑法システム」などの問題へと論は繋がっていきます。
「誰かを叱る可能性のある全ての人のため」に書いたというこの本、本当にとても読みやすく書かれていますので、「生きづらさの正体」を探るため、逆に言えば「皆が生きやすくなるために」ぜひ多くの人に届いてほしいと思います。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
https://teshimamasahiko.com