産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.22『ハブられても生き残るための深層心理学』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、22回目は『ハブられても生き残るための深層心理学』(きたやまおさむ著・岩波書店)です。本に関することの前にこの著者のきたやまおさむさんについて触れておこうと思います。
きたやまおさむ(北山修)さんは、加藤和彦さん、はしだのりひこさんらとザ・フォーク・クルセダーズとして活躍されたアーティストです。ザ・フォーク・クルセダーズの1967年リリースの『帰ってきたヨッパライ』はオリコンチャート史上初のミリオンを記録する大ヒット、他にも『イムジン河』(当時は様々な事情から発売自粛)、『悲しくてやり切れない』などを発表しますが、もともとプロ活動は一年と決めていたため解散となりました。その後メンバーはそれぞれ独自の活躍を見せますが、きたやまおさむさんは、作詞家としては『戦争を知らない子供たち』で日本レコード大賞作詞賞を受賞、他にも『あの素晴らしい愛をもう一度』など多くのヒット曲の作詞を手掛けています。そして、そうした活動の一方で精神科医となり、ロンドン留学、日本での医院開設などを経て九州大学教授、定年後の現在は白鴎大学の学長をされています。このように、きたやまおさむさんは、日本において音楽芸能の分野での多大な実績と、精神医学の確固たる知見を両方持つという稀有な存在です。
さて「ハブられる」とは、つまり仲間はずれにされる、排除される、ということですが、SNSの普及、そしてコロナ禍という世の中で、もともと日本社会に強かった同調圧力や「空気を読むこと」がさらに蔓延し、より生きづらく、そして「ハブる/ハブられる」という風潮が加速しているのではないかと筆者は指摘します。その背景を深層心理学に基づいて解き明かしていくのですが、そこでは「鶴の恩返し」や「イザナミ・イザナギ」の説話や神話、浮世絵や映画などが題材とて取り上げられ、その解釈はとても興味深い内容になっています。
また、人生には台本があり、日本社会では、それは誰か異質なものは排除され、悲劇的な主人公を演じるように描かれていて、それが「みんなの物語」として共有され刷り込まれてしまっていることがあり、それを繰り返さないためにも台本を書きなおしていかなければならない、と言います。そして人生を劇として捉えたとき、舞台だけでなく、素の自分に戻れる「楽屋」のような場所が必要だとも説かれます。それらは氏の経歴からも導き出された独特の思想ですが、とても面白くかつ説得力があります。他にも「誰の中にも、どっちつかずで中途半端な状態や気持ちがあるはず」で、その「中途半端な部分を、たとえば柔軟性として自分自身が受け止め直すのはいかがでしょうか」という提案なども、個人的にはとても腑に落ちやすいものでした。これら以外にも、数々の精神分析的なアプローチと思索がなされているのですが、どれも読んでいてとても面白く、そしてわかりやすく書かれています。このご時世になんだか息が詰まる感覚を抱いている人におすすめの一冊です。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
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