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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.23『格差は心を壊すー比較という呪縛』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.23『格差は心を壊すー比較という呪縛』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、23回目は『格差は心を壊すー比較という呪縛』(リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット著・川島睦保訳・東洋経済新報社)です。読みやすい本を紹介すると言っておきながら、この本は文章としては読みにくさはありませんが、本文だけで433ページあるので、その意味では骨が折れる本かもしれません。しかし、現在の社会状況や、ロシアの様子を見ていると(ロシアはかなりの格差社会だそうです)、全部読まないまでも「格差は心を壊す」ということを多くの人に知ってほしいと思います。

これらが伝わるだけでも意義があるように思いますので、まずそれぞれの章のタイトルを並べてみます。

第1章 格差は私たちを不安にさせる
第2章 格差は私たちの自信を打ち砕く
第3章 格差で私たちは誇大妄想狂なる
第4章 格差は私たちを中毒に追いやる
第5章 人は根っから利己的にできているという誤解
第6章 生まれつきの能力差が格差を生むという誤解
第7章 上流の文化はすべて一流であるという誤解
第8章 なぜ格差と環境問題の解消を同時に考えるのか
第9章 人類と地球のために、生産活動を見直そう

特に1〜4章をご覧になるとわかる通り、格差は何ひとつメンタルに良い影響を与えません。そしてそれが「すべての階層に人に」当てはまるというところもポイントです。

また、この本で紹介されている研究についてひとつ紹介しておきます。
不平等な社会の結果として、他人を威圧する行動を指導力と混同し、虚言やごまかしをも良しとするような経営者や指導者が評価されてしまう現象も起きてしまうことがわかったというのです。格差社会では、上層の人たちは特権意識や自惚れを持ちやすいこと、過度な競争の中では反倫理的なことを行うのも自分が有利になる手段の一つで、それが自分には許されると思い込んでしまう、などが原因です。冒頭で触れましたが、ロシアというかなりの格差社会の頂点に立つ指導者に、こうした特徴が当てはまるような気がしてなりません。そしてそれは、日本も含めてどの国でもこのままでは同様になってしまう危険があるのではないか、と思えてしまいます。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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