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【連載】カウンセリング入門Vol.13──オアシス「Don’t Look Back in Anger」とLD(学習障害)

StoryWriter

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。

■書籍情報
タイトル:なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門
著者名:手島将彦
価格:1,500円(税抜)
発売日:2019年9月20日(金)/B5/並製/224頁
ISBN:978-4-909877-02-4
出版元:SW

自らアーティストとして活動し、マネージャーとしての経験を持ち、音楽学校教師でもある手島が、ミュージシャンたちのエピソードをもとに、カウンセリングやメンタルヘルスに関しての基本を語り、どうしたらアーティストや周りのスタッフが活動しやすい環境を作ることができるかを示す。また、本書に登場するアーティストのプレイリストが聴けるQRコード付きとなっており、楽曲を聴きながら書籍を読み進められるような仕組みとなっている。


Vol.13 発達障害(3)LD(学習障害)

発達障害の分類には、これまで紹介してきた自閉スペクトラム症、ADHDと、もうひとつLD(学習障害)と呼ばれるものがあります。

これは、全般的な知的発達に遅れがないのに、「読む」「書く」「計算する」などの特定の分野の学習だけが極端な困難を抱えているケースで、自閉スペクトラム症やADHDと同じく、育てられ方などによってそうなっているのではなく、生まれつきの脳の機能の特性によるものです。

文部科学省の「学習障害児に対する指導について(報告)」での定義を引用しておきます。

学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。

学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

俳優のトム・クルーズがLDのディスレクシア(読み書き障害)であることが有名です。

また、映画監督のスティーブン・スピルバーグも同じ障害であることを告白しています。彼は読字障害のため、学校を同級生に比べて2年遅れで卒業しました。また、そのためにいじめを受けたこと、学校嫌いであったことなども話しています。

そんな生活の中で救いとなったのが映画製作で「映画を作ることで、わたしは恥ずかしさや罪悪感から解放されました。映画製作はわたしにとっての『大脱走』(*1)だったのです」と彼は語っています。

ミュージシャンでは、オアシスのノエル・ギャラガーがディスレクシアであると言われています。彼は6文字以上だと難しく感じてしまうそうで、そのため学校時代は最悪だったと語っています。

また、イギリスで絶大な人気を誇る彼らの名曲「Don’t Look Back in Anger」の作詞中、弟のリアムが〈”….don’t back in anger ! not today…〉と歌うので「don’t look back in anger ! だ」と言うと「だってそんなふうに書いてないぞ」と言われた、というエピソードをイギリスの音楽誌『Q』でのインタビューで紹介しています。歌詞をリアムに渡す時、よく言葉や文章が抜けてしまうのだそうです。(*2)

 

また、ミュージシャンとしてだけでなく俳優としても活躍しているCher(シェール)もディスクレシアであると言われています。彼女は読むことが困難だったため、16歳で学校を中退するのですが、ほとんどが耳で聴いて学んでいたそうです。(*3)

 

発達障害は、図のようにそれぞれは重複することもあり、人によっては複数の特性をあわせ持つ場合もあります。

また、発達障害者支援法では、この3つ以外に「その他の障害」も対象になっており、「吃音」や「トゥレット症候群」といった障害も対象にふくまれています。

こうした特性を持った人たちがどのくらいの割合で存在するのか、ということに関するデータや説はいくつかあるのですが、長年発達障害の研究と診療に取り組んでこられた本田秀夫氏によれば、10人に1人の割合であるといいます。

また、文部科学省による「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について(2012年)」のデータによれば、公立の小中学校で「発達障害の可能性がある」とされた生徒は6.5%で、およそ1クラスに2名程度ということです。

ただし、このデータは「通常学級」に通う生徒を対象にしており、特別支援学校などに通っている発達障害児はデータから除かれていますので、実際にはもうすこし高い数字になる可能性があります。また、発達障害に知識のある教職員の見立てによる数字で、医師の診断によって出された数値ではないことにも留意が必要ではあります。

しかし、いずれにせよ、これらの特性によってなんらかの困難が生じている人は、実は身近にもいるのだということがわかると思います。それはまぎれもない事実ですので、それを踏まえた環境づくりをすることが合理的だと思います。

【二次障害】
発達障害の特徴が周囲に理解してもらえず、誤解によってむやみな否定的評価や叱責などが積み重なると、否定的な自己イメージや自己肯定感の低下に繋がってしまい、その結果、抑うつ状態や情緒の不安定、深刻な不適応など、様々な精神的な症状を生じてしまうことがあります。これを「二次障害」と言います。そうした事態を避けるためにも、アーティストに携わる人たちはもちろん、より一層社会の理解が進んでいくことが必要なのです。

(*1) ジョン・スタージェス監督・スティーブ・マックイーン主演の映画『大脱走(原題:The Great Escape)』(1963年)のことだと思われます。

(*2) 参照:David Morgan Education  Famous Dyslexics : Noel Gallagher https://dm-ed.com/news/famous-dyslexics-noel-gallagher/

Oasis Interviews Archive
Noel Gallagher – Q – February 1996
http://oasisinterviews.blogspot.com/1996/02/noel-gallagher-q-february-1996.html

(*3)参照 Dislexia Help at the University Of Michigan http://dyslexiahelp.umich.edu/success-stories/cher


Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!
Vol.4 うつ病と双極性障害
Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない
Vol.6 「人はどこまで環境に左右されず意思決定できる?」
Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる
Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!
Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法
Vol.10 LGBTについて LGBTと音楽
Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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