【連載】アーティストのためのカウンセリング入門Vol.15 防弾少年団(BTS)の国連でのスピーチ

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.15 防弾少年団(BTS)の国連でのスピーチ

アメリカのヒットチャートで1位を獲得する等、ワールドワイドで活躍しているK-POPのボーイズ・グループ・防弾少年団(BTS)が、ニューヨークの国連本部で、すべての若者に質の高い教育、技能研修、雇用を与えるための新たなパートナーシップ「Generation Unlimited(無限の可能性を秘めた世代)」の発足イベントに出席し、世界の若者に向けたスピーチを行ない、話題になりました。

このスピーチがとても良い内容でしたので、カウンセラーとしての視点から解説を加えてみたいと思います。

 

僕はそこでとても日幸せな子供時代を過ごし、そしてただ平凡な男の子でした。夜空を見上げて思いを巡らせたり、少年らしい夢を見たりしていました。僕は世界を救えるスーパーヒーローだ、と想像していました。

幼い頃、多くの人は「ごっこ遊び」を体験しているかもしれません(発達障害の子どもには「ごっこ遊び」が苦手というケースもありますので、必ずしも皆にあてはまることではありません)。

戦隊もののヒーローや魔法使い、お姫様などに、空想の世界でなりきって、どんな強い敵でも倒したり、どんな無理難題であっても魔法で解決したり、世界で一番愛される存在になったりします。

こうした感覚を幼児的万能感(全能感)と言います。

幼少期に万能感をたくさん体験することは、自己肯定感を育てる上でとても大切なことです。社会的・倫理的ルールを知り、それを守るということを身につけていくことは重要なことですが、その一方でこうした体験が不足してしまうと、自己肯定感が育まれず、歪みを生じてしまいます。

僕らの初期のアルバムのイントロの中に「9歳か10歳の時、僕の心臓は止まった」という歌詞があります。

振り返ると、その頃から他人が自分のことをどう思っているのかを気にし始め、人々の視線を通して自分自身を見るようになったように思います。夜空や星を見上げることをやめ、空想にふけるのをやめました。

代わりに他人が作った型の中に、自分自身を押し込めようとしました。僕は自分の口を閉ざし、他人の声を聞くようになりました。

まず、人は自己意識を持たない段階(乳児期)があり、それから、自分が何をしたいのか、次に自分は何をするのか、というようなことを意識しながら行動できる、即自的段階になり(幼児期・児童期)、最後に自分を他者の目で見ることができる対自的な段階(青年期以降)になります。

児童期は自己を客観的に見ることができないからこそ、肯定的・安定的にいられるという面もあるのですが、そうした心の構造はやがて崩れてしまい、大人の心に再構造化される過渡期に入ります。

すると、他人の目にどう見えるのか、ということや、自分の否定的な側面などが気になるようになります。

そして、否定的に捉えている面を、肯定的な方向に変えようと努力するのですが、必ずしもうまくいくとは限りませんし、また、うまくいかないということに気づくようになります。

その結果、自分の否定的な面を内側に隠し、外側には望ましいと思う自己を表現する、いわば仮面を被ったような二重構造になることが、程度の差はありますが、どんな人にも生じます。

でも僕はひとつの聖域を持っていました。それが音楽でした。僕の中で「起きろ、自分自身の声を聞け」と小さな声が聞こえたのです。しかし音楽が僕の本当の名前を呼んでいるのが聞こえるまでに、長い時間がかかりました。

僕は昨日、ミスをしたかもしれません。しかし、昨日の僕はやはり僕です。今日の僕は、これまでの全ての欠点と失敗と共にあります。明日の僕は、もしかすると少しだけ賢くなるかもしれません。そしてそれも僕なのです。これらの欠点や失敗は、僕自身であり、僕の人生の星座を形作る、最も輝く星たちです。僕は今の自分、過去の自分、これからなりたい自分を愛するようになりました。

青年期の終わりには、肯定的な自分も否定的な自分も、どちらも自分であると認められて、次第に統合されていきます。

また、この連載のVol.7でのブルース・スプリングスティーンの「あらゆる自分自身がその車に乗っていて、新しい自分はその車に乗り込むことができるんだ。でも、昔の自分がその車を降りることはないんだよ。いつでも重要なのは、そのなかの誰がハンドルを握るかってことだ」という喩えも思い出されます。

「現在」の自分は過去からの長期的な連鎖を経て存在しています。この連鎖を否定することは、すでに起きてしまったことを変化させることに対して、全く役に立ちません。過去の自分は車から降りることはない、つまり、それも全て自分であることを認めることが大切なのです。(Vol.7 『「現在」と「事実」を重視する。視点を変えてみる』参照

僕らは自分自身を愛することを学んだ。だから今皆さんに、自分自身を語って欲しい、と強く望みます。皆さん全員に聞きたいのです。皆さんの名前は何ですか? 皆さんの胸を高鳴らせ、心を動かしているものは何ですか? 皆さんのストーリーを聞かせてください。皆さんの声と信念を聞きたいです。あなたが誰なのか、肌の色、ジェンダーのアイデンティティは関係なく、自分自身について話してください。自分自身を語ることで、自分の名前、そして自分の声を見つけてください。

これは、この連載のVol.8で紹介したケンドリック・ラマーのメッセージにも共通します(Vol.8参照)。

ケンドリック・ラマーは、「自分を愛そう」と自己肯定感の大切さを主張し、「自分自身であれ」「他人を意識しすぎるあまりに、自らの才能を台無しにしてしまったヤツらを、俺は嫌と言うほど見てきた」と発言しています。

そしてBTSは、それは「あなたが誰なのか、肌の色、ジェンダーのアイデンティティは関係ない」と言います。

この連載のVol.10ではLGBTについても取り上げましたが、人種やジェンダーのアイデンティティにまで意識を届かせた発言を国連の場で行なえる彼らは、今の世界と次世代を象徴するアーティストのひとつといえるでしょう。

全米1位を獲得した、BTS (방탄소년단)『LOVE YOURSELF』


Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!
Vol.4 うつ病と双極性障害
Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない
Vol.6 「人はどこまで環境に左右されず意思決定できる?」
Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる
Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!
Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法
Vol.10 LGBTについて LGBTと音楽
Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)
Vol.13 発達障害(3)LD(学習障害)
Vol.14 発達障害(4)「個性と障害」

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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