「おはー! 昨日はありがとう! また待ってるね」
地方の嬢、アキちゃんからのラブレター(LINE)を見つめながら、高速バスに揺られる私。
歌舞伎町に、エリカ嬢という本妻(本指名)を持ちながら、ついつい浮気(場内指名)をしてしまったことに若干の後ろめたさを感じながら、東京へと向かっていた。
4列シートのバスの中は、スキー帰りらしき若者たちで満席だった。早朝の出発ということもあり、乗客の多くは爆睡している。窓際に座った私の隣席でも、20代前半らしき女性がスヤスヤと寝息を立てていた。
ときおり、満員電車でよくあるように、首がカクンッとなり私の肩に顔を乗せてくる女性。さりげなく、寝顔を覗き見る。
清潔そうな黒髪ショート、鼻筋の通った顔。無防備な鎖骨、そして巨乳。
グラビア界の黒船、リア・ディゾンに、似ている。
そっと肩をずらし、体制を直す私。同時に、みなぎる股間のポジション調整も余儀なくされる。早朝の効果もあるとはいえ、不惑の40代にして、この活力。私にとって、前夜のアキちゃんとの出会いがいかに刺激的だったかを痛感した。
黒船こと、隣の女性が目を覚ます。すかさず目を閉じ、眠ったふりをする私。黒船は、起き抜けでハッと我に返ったようにスマホを取り出すと、なにやら猛スピードで文字を打っている。
薄目を開けて、その様子をチェックする私。どうやらLINEを打っているらしい。
「おぱよ。今日、同伴できる?」
まさかの嬢。ここにも、嬢。田村でも嬢、谷でも、嬢。
日本では、2030年には人口の約7割がキャバ嬢、もしくはガールズバー勤務になると予想されている(※アセロラ4000調べ)。
歌舞伎町の嬢から離れ、地元の嬢と出会い、そして今、高速バスの中で黒船嬢と出会う。『フォレスト・ガンプ/一期一会』を彷彿とさせる、私の数奇な運命。
キャバクラを愛し、キャバクラに愛された男、アセロラ4000だからこその、出会い。黒船嬢が、どこの嬢なのか、知りたい。思い切って話しかけようと思ったそのとき、私のスマホがLINEの受信を告げた。
「おはよん! アセちゃん、今週いつ来れる?」
歌舞伎町「ロザーナ」のエリカ嬢からの、ディナー(来店)の誘い。しばし返答に迷う、私。そこに、またしてもLINEが届いた。
「来週、東京行こうかな? でも、嵐が5人揃うときのが、いっか(笑)」
アキちゃんから、(自称)プロデューサーの私への、牽制中。嵐への道のりを、慎重に探っている様子が伺える。彼女は、本気で嵐に会うつもりなのだ。
しかしそれは、決して叶うことのない、ネバーエンディングストーリー。嵐に会えることなど、百恵ちゃんの現役復帰と同じくらい、ありえない。
嵐に会わせるなどと一度も言っていないものの、プロデューサーと偽ってしまった以上、私にも責任はある。悩む、私。
「今度きたとき、シャンパンで乾杯しよっか?」
エリカ嬢が、私を追い詰める。
「嵐の好物って、何かなあ?」
地元の名産品を持参しようと思っている様子の、アキちゃん。嵐をなんだと思っているのだろうか。
先ほどから次々とLINEが届く私のモテ男ぶりに、隣の黒船嬢は拗ねたらしく、ふて寝してしまった。すまない、黒船嬢。私は今、二人の嬢で、揺れている。鎖国を解くことは、できない。
二人の嬢への対応に煮詰まった私。こんなときは、そうだ、エトウさんだ。ガサガサボイスのエトウさんに、相談しよう。いざというときは、年相応の知恵を絞り出してくるエトウさん。意外と、頼りになるのだ。
私はまず、アキちゃんが暴走を続ける嵐問題に決着をつけるべく、エトウさんに、その旨をLINEで相談した。このままでは、アキちゃんは、嵐に会うために、上京してきてしまう。どうすれば、いいのか。エトウさんの答えは、秒速で帰ってきた。
「オレ、松潤、やりますよ」
私は一瞬芽生えた殺意を抑え込み、寝た。
〜シーズン3 第17回へ続く〜
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第1回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第2回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第3回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第4回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第5回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第6回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第7回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第8回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第9回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第10回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第11回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第12回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第13回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第14回
シーズン3 歌舞伎町ニューウェーブ編 第15回
※「【連載】アセロラ4000「嬢と私」」は毎週水曜日更新予定です。
月に一度のキャバクラ通いを糧に日々を送る派遣社員。嬢とのLINE、同伴についてTwitterに綴ることを無上の喜びとしている。未婚。
https://twitter.com/ace_ace_4000