【連載】カウンセリング入門Vol.17──「市民革命」「産業革命」とポピュラー・ミュージックの関係

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.17 産業と音楽とカウンセリング(1)2つの革命と音楽の関係

ところで、僕の肩書きのひとつである「産業カウンセラー」とは、わざわざ「産業」という言葉がついているところに意味があります。

それは、主に働く人々を対象に支援を行なう専門家であるということです。

したがって、労働法や、働いている人々の実態などを知るということも必要になってきます。アーティストも産業とは無関係ではいられませんし、音楽自体も社会の動向に左右されてきた歴史があります。

また、カウンセリングの発展は産業の変化と大きく関係しています。

そこで、数回に分けて、「産業」と「音楽」と「カウンセリング」について書いてみたいと思います。

まず最初に、労働者の地位の保護や向上のための「労働法」が、どうやって生まれたかを見てみます。なぜ、そこから話をするのかといえば、それが現在私たちが楽しんでいるポピュラー・ミュージックの誕生と無縁ではないからです。

■音楽に影響を与えた2つの革命〜コンサートのルーツ

「労働法」は、2つの革命をきっかけとして生まれました。

ひとつはフランス革命に代表される、18世紀後半の「市民革命」です。フランス革命では「人は、生まれながらに自由であり、権利において平等である」という人権宣言が採択されました。これによって、それまでの封建的なシステムから個人を解放し、自由にしました。

もうひとつの革命は、市民革命と前後して起った「産業革命」です。これによって先進諸国では機械による大量生産の時代に突入します。

この2つの革命は、音楽にも大きな影響を与えます。フランス革命はベートーベンに大きな影響を与え、彼は「交響曲第3番」を作ります。また、個人の人間性を尊重するロマン主義が台頭し、シューベルトやシューマンなどの作曲家を生みます。

 

 

そして、かつて音楽は貴族や王のもので、音楽家は宮廷音楽家として生計を立てることを目指していましたが、産業革命の結果、資本家などの民衆たちに音楽が広まっていき音楽の大衆化が進み、民衆のための音楽が発展し、民衆のための演奏会が催されるようになります。

音楽家たちは、自分で作曲した楽曲を披露するため、コンサートホールを借りて人を集めるようになりました。

つまり、コンサート収入によってアーティストが生計を立てるというやり方の原型がこの時代に生まれるのです。

■労働法の誕生と音楽

しかし一方で、この2つの革命は、伝統的な共同体が持っていたある種の保護や安定といったものを失うということでもありました。

産業革命によって、それまでの親方と職人、徒弟といった家族的な労働関係は、しだいに企業家と、その工場で働く大量の非熟練労働者という関係に変化していきます。大きな工場で大量生産された安い製品が市場に出回るようになると、小規模な作業場でつくられた商品は割高なため、その多くは売れなくなります。その結果、熟練した技術をもっていた者も、大量生産の大工場で、比較的熟練の必要のない仕事に従事せざるを得なくなります。こうした人々は、劣悪な雇用条件や労働環境で働かされました。

ここで皮肉なことが起きます。

革命によって人々は「自由」を得ることが出来ました。それは労働契約に関しても個人の自由に委ねる、ということにもなります。すると、そのことによって問題が発生しました。労働者の方が会社に比べて経済的に弱い立場にある場合が多いのですが、そのため、労働者にとって不利な条件であっても、生活のためにそれに同意せざるを得なくなります。

また、労働者は、どのように働くかを使用者によって規定されて、自由が奪われていることも多いです。これらを「個人の自由」に委ねておくだけでは、その関係性から人間の尊厳と自由が奪われてしまうという問題が生じたのです。

それを解消するために「個人の自由」を修正して、労働時間の規制や社会保障制度などによる「集団的保護」と、労働者側が団体で交渉できて、スト等の団体行動ができる「集団的自由」というものが発明され、現代の「労働法」の原型がヨーロッパを中心に誕生します。

さて、こうして少しずつ労働者の立場は向上していくのですが、そこでようやく「個人の余暇」が生まれます。使用者の命じるままに長時間働き続けなければならない状況では、自分の時間は生まれませんし、あったとしてもごく僅かで、疲労のために最低限のことしかできなかったでしょう。

こうした「個人の余暇」が生じたことで、自分で楽器を演奏したり、音楽を聴いて楽しんだり、さらには自ら創作してみたりすることが可能になり、現在私たちが楽しんでいるポピュラー・ミュージックが生まれる一因となるのです。


Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!
Vol.4 うつ病と双極性障害
Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない
Vol.6 「人はどこまで環境に左右されず意思決定できる?」
Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる
Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!
Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法
Vol.10 LGBTについて LGBTと音楽
Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)
Vol.13 発達障害(3)LD(学習障害)
Vol.14 発達障害(4)「個性と障害」
Vol.15 防弾少年団(BTS)の国連でのスピーチ
Vol.16 アイデンティティとは?

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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