産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.27『わたし中学生から統合失調症やってます。〜水色ともちゃんのつれづれ日記』
メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、27回目は『わたし中学生から統合失調症やってます。〜水色ともちゃんのつれづれ日記』(ともよ著/若宮病院児童精神科医長・成重竜一郎解説/合同出版)で、中学2年生の14歳の時に統合失調症を発症した作者による、その実体験に基づく漫画です。
僕は、特に春になるとこの漫画を思い出します。それはこの漫画の「春は体調を崩す」という章が印象に残っているからなのですが、そのセリフだけ引用してみます。
季節の変わり目が苦手
特に 春
なにもかもが新しくなる
眩しい季節の中で
体調を崩すいろんなものが華やかになる
空気も暖かくなり、体が動かしやすくなる
花も咲く太陽の光も強くなり
全体が明るくなるこれは すべて変化
この変化が
かなり衝撃特に色彩という色彩が一気に強まると
脳の情報処理が間に合わない
激しい変化に追いつかなくて体調を崩す
僕自身も春は気象の乱高下な変化が苦手なのですが、それだけでなく「桜が咲いた」とか「緑が芽吹いてきた」とか、「人々の服装の色が明るくなってくる」とか、そうした色彩の強まりと変化が人によっては辛いのだ、ということは、それまでの自分にはない視点と世界でした。自分が見ている、知っている世界は、あくまでも自分の中だけの狭いものなのだなとあらためて思いました。
この漫画では、作者が感じる不安、辛さ、希死念慮、就労や生活上での現実的な困難などのエピソードもたくさん紹介されます。例えば「生きていけないのになんで死んじゃいけないの?」という言葉には胸が締め付けられます。読みやすさとは正反対に重い話もたくさんありますが、それも第三者ほど知っておきたいことです。
作者は「当事者と第三者には見えない壁がある。でも壁を乗り越えた先には新しい世界が待っていた」と言い、「統合失調症のことと現実を大勢の人に知ってもらえますように。そして、当事者のみならず、互いに理解し合い、認め合う社会になりますように」と願います。そのような理解促進のためにも、とても読みやすい漫画ですので、多くの人に届くと良いなと思います。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
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