【連載】カウンセリング入門Vol.18──アメリカの発展とジャズ&ブルースとカウンセリング

アーティストが抱えている、アーティストならではの悩み。メンバーやスタッフに相談するのは気まずかったり、カウンセリングに足を運ぶことができないアーティストも少なくないんじゃないでしょうか? 同じように、アーティストを支えるスタッフや関係者においても、どうやって彼らをサポートしたらいいのかわからないという状況もあるかと思います。

そんなアーティストや彼らに関わる人たちに向けた連載がスタートです。

アーティストたちが抱える「生きづらさ」を探った書籍『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』で、現役精神科医師の本田秀夫とともに創作活動を続けるためにできることを執筆した、産業カウンセラーでもある手島将彦が、カウンセリングについて例をあげながら噛み砕いて説明していきます。

アーティストが抱える悩みが解消される手助けになることを願っています。


Vol.17 産業と音楽とカウンセリング(2)アメリカの発展と音楽とカウンセリング

前回はヨーロッパの話でしたが、今回舞台はアメリカに移ります。

アメリカはアフリカから強制的に連れてきた多くの黒人たちを奴隷として扱うことで産業を構築していました。過酷な労働を強いられた黒人たちは、「ワークソング」「フィールド・ハラー」と呼ばれる労働歌を歌って凌いでいました。

 

 

そして、1861年に南北戦争がはじまり、北軍が勝利することによって1862年に奴隷解放宣言がなされます。

その結果、実際はかなり限定的だったとはいえ、黒人たちは「自由」を得ることになります。

それによって、それまでは労働の効率化や気晴らしのためや、神に対して歌っていたものが、労働以外の自由な時間を得たことで、自分たちについて歌いだしたのです。それがブルースのルーツのひとつになります。

ヨーロッパでも同じですが、労働法や基本的人権を尊重する運動によって、個人の時間と自由が(現代と比べた場合、それがたとえ僅かであったとしても)保証されたことで、今私たちが聴いたり演奏したりしている音楽の原型が生まれた、ということは、忘れてはならない大切なことだと思います。

1900年代に入ると、アメリカは急速に工業化が進みます。

すると、職を求めて若者たちが都市部に集まり、工場労働者となりました。しかし、その際に若者たちの適性や興味はまったく考慮されませんでした。そのため、すぐに多くの若者がすぐに離職してしまう事態となり、その結果としての生活苦やストレスから犯罪に走る者も少なくありませんでした。

すると、そうした若者を救おうという社会運動がはじました。

1908年、フランク・パーソンズはボストンに職業局をつくり、そこで職業カウンセリングをはじめます。

「丸い釘は丸い穴に」というスローガンとともに、個人の能力や興味、資質などをマッチングさせる「適材適所」の考え方がここで生まれます。これは「職業指導運動」とよばれ、アメリカ、ヨーロッパに影響を与えました。

これに続いて、個人の能力や適性などを正しく捉えるための測定技術が必要ということで、「教育測定運動」が展開されます。ここで、史上はじめて知能指数(IQ)という概念も導入されます。

そして、クリフォード・ビアーズ等を中心に「精神衛生運動」がはじまり、1928年には、全米精神衛生財団が設立され、現在のメンタルヘルス運動への流れが作られました。

音楽では、ニューオリンズ・ジャズが生まれたのがこの頃です。

また、先述のような社会運動とともに、産業が活気づいていた北部の都会に南部の黒人たちも移り住みはじめ、それによって洗練されたシティ・ブルースや、クラシック・ブルースが生まれます。

1920年にはメイミー・スミスの「That Things Called Love」がブルースとしてはじめてレコードになりました。その後、ジャズやブルースは様々な進化・変化を繰り返し、現在のポピュラーミュージックの礎を築いていくことになります。

 

ちょうど同じ頃アメリカでは、企業が従業員の職場適応のために支援を行なう必要があると認めるようになり、「産業カウンセリング」の原点となるような研究や実践が行なわれました。

その中でも有名なもののひとつに、1924年から9年間にわたってアメリカのウエスタン・エレクトリックという会社のホーソン工場で行なわれた「ホーソン実験」があります。この工場は、賃金も良く、娯楽施設も医療制度も整備されていたのですが、従業員には不平不満が噴出していました。

そこで、その原因を探るべく、さまざまな条件下で従業員と生産高の関係を調査します。それによって「組織で働く人間は、社会的な存在であり、物理的・経済的な条件以外に、感情的な側面が重要だ」ということが明らかになりました。

つまり、機械的・システム的・物理的なことだけでは生産性はあがらない、ということ、生産性を高めるには、人間の感情面も重要なのだ、ということです。

一見当たり前のように思えるこの研究結果ですが、果たして現代においても本当にこのことがどの程度理解され、実践されているでしょうか?

また、同じ1924年から4年間、メーシーズ百貨店でも研究が行われました。

そこでは、従業員の態度不良、無関心、反抗的態度等の問題が起きていたのですが、その行動の奥にある原因に対応できるようなカウンセリングを行なうことによって、問題のある従業員の3分の2が改善したという結果が得られました。

つまり、カウンセリングによって、本人も企業もお互いに良い状態に向かうことが証明されたのです。


Vol.1 レジリエントな人(回復性の高い)とは?
Vol.2 「俺の話を聞け!」〜『傾聴』が大事
Vol.3 「バンドをやめたい」と言われた!
Vol.4 うつ病と双極性障害
Vol.5 とにかく「休む」! 不安や絶望はクリエイティヴに必須ではない
Vol.6 「人はどこまで環境に左右されず意思決定できる?」
Vol.7「現在」と「事実」を重視、視点を変えてみる
Vol.8「I Love Myself」自己肯定感を持て!
Vol.9 睡眠は大切!不眠の悪循環から抜け出す方法
Vol.10 LGBTについて LGBTと音楽
Vol.11 発達障害(1)自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
Vol.12 発達障害(2)ADHD(注意欠陥・多動性障害)
Vol.13 発達障害(3)LD(学習障害)
Vol.14 発達障害(4)「個性と障害」
Vol.15 防弾少年団(BTS)の国連でのスピーチ
Vol.16 アイデンティティとは?
Vol.17 2つの革命と音楽の関係

※「【連載】「アーティストのためのカウンセリング入門」は毎週月曜日更新予定です。

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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