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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.31『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、31回目は『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』(松本俊彦著・中外医学社)です。

文章としてはとても読みやすく、わかりやすく書かれているのですが、タイトルからもわかるとおり、扱われているテーマはとても重いものです。基本的には精神科医療に何らか携わっている人に向けて書かれているものではありますが、自殺に対する基本的な考え方として、そうではない人にも知っておいてほしいことが多く含まれています。

まず本書では自殺について「自殺の対人関係理論」に沿って説明されます。それは要約すると、1つは「精神医学的問題の影響は無視できないが、本質的には取り巻く人たちや所属する集団との関係で自殺は起きる」ということ、もう1つは「自殺願望を抱く人にとっても自殺は恐ろしく、難しい行為である」ということです。

特に後者に関して、自殺を考えている人は、生と死の間で絶えず気持ちが揺れ動いているということでもあります。実際に自殺してしまった人の残された映像に、自殺する直前まで何度も、握りしめていた携帯電話に目を向けていた、つまり最後まで人と繋がるツールを意識していた、生と死の間で気持ちが揺れ動いていた姿が見られた、という事例も紹介されています。それは、もしかしたらちょっとしたことでも自殺を思い止まらせることができるかもしれない、ということでもあります。この本の帯には次のように書かれています。

「死にたい」とだれかに告げることは「死にたいくらいつらい」ということであり、もしもこのつらさを少しでもやわらげることができるならば「本当は生きたい」という意味なのである。

一方で深刻な自殺念慮ほど隠されてしまう傾向もあると指摘されています。自殺を決意した人は「自殺を止めようとする支援者」を「楽にさせてくれない人」と敵視して思いを隠したり、勘付かれないように平静を装ったり、殊更に元気に振る舞ったりすることもあるそうです。そこで、正直に告白してもらうためには、自殺を不道徳な行動と決めつけず、自殺が持つ「問題解決策のひとつ」「耐え難い苦痛から解放される方法の一つ」という側面を援助者は理解しなければなりません。また、本書では「自傷行為」についても書かれていますが、それも同様に、自傷行為をいけないことと否定したりせず、その行為の肯定的な面を確認して共感することが重要だと説かれています。

そしてもし「死にたい」と告白されたら、まず告白してくれたことに感謝し、安易に励ましたり、叱責や批判、強引な説得をしたりせず、まずは「傾聴」します。それから、自殺念慮の背景にある問題を明らかにするような質問を行いますが、あくまでも、自分の信念や考えを伝えるのではない形で「聴く」「質問する」姿勢が重要になります。

他にも紹介したいことがたくさんあるのですが、最後に目次を記載しておきますので参照してみてください。人の生死に関わることは、一筋縄ではいかず、とてもすぐに理解することも、特効薬的な方法を見つけることもできないかもしれません。しかし、良い方向に向かえる可能性があるのならば、できるだけ最善を尽くしたいと僕は思います。また、自殺については以前『もし「死にたい」と打ち明けられたらーー最も悲劇的な”自殺”について考える』という記事にも書きましたので、こちらもご参照いただけると幸いです。

『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』

目次
はじめに

第1章 人はなぜ自殺するのか
自殺の対人関係理論に基づく予防と治療・援助の基本
I  はじめに
II  自殺の対人関係理論とは
III 自殺の対人関係理論からみた精神障害と自殺との関係
IV  自殺の対人関係理論からみた危機介入のあり方
V  おわりに

第2章 隠された自殺念慮に気づくには
自殺念慮のアセスメントとCASEアプローチ
I  はじめに
II  自殺予防における自殺念慮が持つ臨床的意義
III 自殺念慮のアセスメントに際しての困難と注意点
IV  語りづらい話題を正直に語らせる技法
V  自殺イベントの時系列アセスメント
VI  補足的な情報収集
VII おわりに

第3章 自殺企図の評価と対応
I  はじめに
II  自殺企図の評価
III 自殺念慮の告白に対する対応
IV  自殺企図の対応
V おわりに

第4章 非自殺性自傷に対する精神療法
I  はじめに
II  非自殺性自傷の治療に際しての基本的な態度
III 自傷のモニタリングとトリガー分析
IV  置換スキルの習得
V  面接の実際
VI  症例A 17歳 女性 高校生
VII 自傷が止まった後のかかわり
VIII おわりに

第5章 過量服薬の理解と予防・対応
I  はじめに
II  過量服薬の理解
III 過量服薬の予防
IV  過量服薬の危機介入
V  おわりに

第6章 心理学的剖検から見えてきた自殺の危険因子
I  はじめに
II  心理学的剖検とは?
III なぜ心理学的剖検研究が必要なのか―他の研究手法との比較
IV  海外における心理学的剖検研究の動向
V  わが国における心理学的剖検の現状
VI  私たちの心理学的剖検研究から現在までに明らかにされたこと
VII おわりに

あとがき
索引


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

 

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