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StoryWriter

みなさんこんにちは、先日レイトショーを見に行き上映終了次第すぐに爆走すれば終電に間に合うか間に合わないかギリギリの賭けにでました、テラシマユウカです。

結果的に終電には間に合ったのですが、作品の余韻に浸る間も無く映画館を出たのでもうギリギリで生きていくのはやめようと思いました……。

レイトショーの時間帯はいつもの映画館より少し寂しい雰囲気がある気がして、ハッピーじゃなさそうな映画を観るときに利用したくなります。

いつかホラー映画を真夜中に観に行きたいと思っているのですが、さすがにビビってなかなか一歩踏み出せないので今年は挑戦してみたいと思います!

Vol.3『凪待ち』

☆3.8/☆5.0点中

公式HP:http://nagimachi.com/

 

誰が殺したのか?

なぜ殺したのか?

愛という名に隠された

事件の真相とは―

毎日をふらふらと無為に過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓(西田尚美)の故郷・石巻に戻る決心をした。そこには、末期がんであるにも関わらず、石巻で漁師を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)がいた。亜弓の娘・美波(恒松祐里)は、母の発案で引っ越しを余儀なくされ不服を抱いている。

美波を助手席に乗せ、高速道路を走る郁男に美波の声が響く。

「結婚しようって言えばいいじゃん」

半ばあきらめたように応える郁男。

「言えないよ。仕事もしないで毎日ぶらぶらしてるだけのろくでなしだし…」

実家では、近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)が勝美の世話を焼いていた。人なつっこい小野寺は、郁男を飲み屋へ連れていく。そこで、ひどく酒に酔った村上(音尾琢真)という中学教師と出会う。村上は、亜弓の元夫で、美波の父だった。

新しい暮らしが始まり、亜弓は美容院を開業し、郁男は印刷会社で働きだす。そんな折、郁男は、会社の同僚らの誘いで競輪のアドバイスをすることに。賭けてはいないもののノミ屋でのレースに興奮する郁男。

ある日、美波は亜弓と衝突し家を飛び出す。その夜、戻らない美波を心配しパニックになる亜弓。落ち着かせようとする郁男を亜弓は激しく非難するのだった。

「自分の子供じゃないから、そんな暢気なことが言えるのよ!」

激しく捲くし立てる亜弓を車から降ろし、ひとりで探すよう突き放す郁男。

だが、その夜遅く、亜弓は遺体となって戻ってきた。郁男と別れたあと、防波堤の工事現場で何者かに殺害されたのだった。

突然の死に、愕然とする郁男と美波――。

「籍が入ってねえがら、一緒に暮らすごどはできねえ」

年老いた勝美と美波の将来を心配する小野寺は美波に言い聞かせるのだった。

一方、自分のせいで亜弓は死んだという思いがくすぶり続ける郁男。追い打ちをかけるかのように、郁男は、社員をトラブルに巻き込んだという濡れ衣をかけられ解雇となる。

「俺がいると悪いことが舞い込んでくる」

行き場のない怒りを職場で爆発させる郁男。

恋人も、仕事もなくした郁男は、自暴自棄となっていく――。

白石和彌×香取慎吾が挑む、バイオレンスと絶望、怒りと裏切り、不条理と悲劇、愚か者たちの衝撃のヒューマンサスペンス。

私自身とても衝撃を受け印象に残っている作品『彼女がその名を知らない鳥たち』を手掛けた白石和彌監督の最新作という事で期待が高く公開を待ち望んでいました。

『彼女がその名を知らない鳥たち』は蒼井優さん阿部サダヲさんが主演を務め、歪んでいるようで真っ直ぐな新しい愛の形が描かれており、最低でおかしくて不気味な愛の衝撃に鑑賞後はしばらく重い余韻を引きずった記憶があります。蒼井優さんがご結婚され、白石監督の最新作が公開された今、一番に見返したい作品でもあります。

そして今作品は恋人を殺され、犯人探しのサスペンスかと思えばそうでなく、悲しみのどん底での絶望や葛藤、再生を描いたヒューマンドラマです。

郁男はギャンブルに溺れ、仕事も続かず恋人のお金に手をつける程のダメな男。ですが何故か近くの人間には愛され、それに疑問を抱きつつも違和感なく納得できてしまう不思議な人物。そんな郁男を演じた香取慎吾さんの存在感というものが凄まじく、まずビジュアルが印象的で今までにテレビで観たこともないような陰鬱な表情、光の無い目、大きくて不健康そうな身体、そして覇気のない喋り。世間一般の香取慎吾さんのイメージなど忘れてしまいそうなインパクトのある、心底哀しみと孤独が溢れ出た”木野本郁男”という人間味が完成しており、それだけで観る価値が十分過ぎる程ありました。

そんな彼が恋人や残された恋人の娘、仕事、かつての仕事仲間など様々な事件と葛藤がありながら、自らの感情に荒々しくも体当たりしていく人間臭い姿には胸を打たれます。

どれだけどん底に落ちて絶望したとしても、必ず再生できるというメッセージが込められているのかもしれません。

誰が殺したのか?
なぜ殺したのか?

という見出しの答えに関してはあまり期待通りではありませんでしたが、この作品においてその疑問はあまり重要ではない気がしました。

そして作品の舞台は石巻。かつて東日本大震災で大きな被害を受けた地域のひとつであり、劇中でも防波堤や工事途中の現場など震災による傷跡が大きく映し出されています。

亜弓の父、勝美は震災で妻を亡くし自身は末期ガンでありながらも変わらず漁師として海に出ようとします。その姿は恋人を亡くし全てを失い変わってしまった郁男と対比され勝美の言葉が強く説得力を持つものになっていました。

震災により多くのものを失った石巻を舞台にした、全てを失った男の再生物語。

「津波のせいで全部ダメになったんじゃない、津波のおかげで新しい海になったんだ」というセリフが心に残っています。

このセリフを聴いて、私の好きな小説、平野啓一郎氏の『マチネの終わりに』に書かれている

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」

という言葉がふと浮かびました。

過去に起きた事実は変えれないけど、それをどう受け入れるかはこれからの考え方や行動次第。未来によって絶望した過去の捉え方が変わることは大いにあると郁男の再生に向けての可能性を感じます。

ちなみに、『マチネの終わりに』は今年11月1日に映画化されるのでとっても楽しみで仕方ありません。

言葉では表しきれない感情に溢れ、どこにこの感情を落としこむべきか考えさせられる人間模様を描いた『凪待ち』。人によって鑑賞後に前向きに捉えられるか、落とし所が分からず困惑したまま終わるか、どちらに終着したとしても映画好きにはこの夏絶対に外せない作品のひとつです。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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テラシマユウカ


2014年に結成され、現在9人組として活動中のアイドル・グループGANG PARADEのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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