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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.33『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.33『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、33回目は『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』(アン・ディクソン著/監訳・竹沢昌子・小野あかね/つげ書房新社)です。

アサーティブネスはアサーションとも言われますが、元々は「主張」という意味で、心理学的には、単なる自己主張ではなく、自分と相手の両方に敬意を払い、相手の立場や権利を尊重しながら自分の言いたいことを率直に表現することです。ちなみにこの本の背表紙には「他人に席は譲っても、人生の主役の座を、他人に譲ることはない」と書かれています。

具体的な手法をいくつか取り上げると「相手の行動を直接責めない」「自分はこのように思うと伝える」「相手が反発する否定的な言葉でなく、肯定的な言葉を使う」ことです。そして、「あなた」を主語にすると、否定的に受け取られやすいので、できるだけ「私」を主語にして話します。たとえば「あなたは間違っている」ではなく「私の考えは、あなたの考えとは違っています」だったり、「あなたはどうしていつも○○の提出が遅いんだ」ではなく「私は、あなたが早く出来上がると助かります」などといった形です。

実はアサーティブネスのルーツはアメリカの公民権運動に遡ります。アフリカ系アメリカ人も白人と同じ権利を持って良いという主張は、それ自体は白人を否定するものではありません。当時全米でアフリカ系アメリカ人は全人口の10数%程度でしたので、自分たちの主張を通すためには多数派の白人たちが動くことが必要でしたが、アサーティブネスの考え方による意見表明によって、運動の支持拡大ができたのです。

そして、本書では「11の権利」が提唱されています。

1. 私には、自分の要求を言葉に表し、日常的な役割に縛られない一人の人間として、物事の優先順位を決める権利がある。
2. 私には、賢くて能力のある人間として、‎対等に、敬意をもって扱われる権利がある
3. 私には、自分の感情を言葉で表現する権利がある
4. 私には、自分の意見と価値観を述べる権利がある
5. 私には、「イエス」「ノー」を自分で決めて言う権利がある
6. 私には、間違う権利がある
7. 私には、自分の考えを変える権利がある
8. 私には、「わかりません」と言う権利がある
9. 私には、欲しいものを欲しいと言い、したいことをしたいと言う権利がある
10. 私には、他の人の問題に責任を取らなくてもいい権利がある
11. 私には、人から認められることをあてにしないで、人と接する権利がある

前回は『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』という本を紹介しました。そこでは、助けてと言えないのには理由がある、助けてと言えない社会に問題があるということを考慮すべきと説かれていましたが、それと同時に上記のような権利も皆持っているのだということを心に留めておくことも大事なことなのだと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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