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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.40『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、40回目は『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』(原雄二郎・鄭理香著・誠信書房)です。

前回紹介した本に引き続き「職場」をテーマにした本ですが、精神科医、産業医として発達障害者の臨床や相談を行っている著者らによる、職場の発達障害者への対応の仕方をまとめたものになります。

まず第一章から引用します。

マジョリティが「普通」で、少数派が「普通ではない」のでしょうか。考えてみると、自分が「普通」の基準になっていませんか。自分と少し違った人が「普通ではない」のではなく、皆少しずつ同じで、少しずつ違うだけです。私は時々、この「普通」という言葉の意味がよくわからなくなります。

この考え方から、発達障害の範疇に入ると考えられる人たちをこの本では、適切な理解と支援があればうまくやっていける「ユニーク・パーソン」と捉えます。そして、職場で起こるさまざまな「相互理解のずれ」を例示し、具体的なアプローチを考えていきます。取り上げられている例を一部紹介すると

・高学歴だが実作業はあまり得意ではなく、しかし口は達者で、時に相手の気分を害してしまう人
・現場一筋だったがリーダー職に抜擢されてから様々な困難が生じてしまった人
・電話対応で固まってしまう・口頭の指示にうまく対応できない・咄嗟の対応が苦手でパニックになってしまう人
・アイデアマンだが思いつきで言うことがコロコロ変わる人
・寝食忘れて体を壊すほど働き過ぎてしまう人

などです。他によくある「困りごと」の事例として「指示が入らない」「気が散りやすい」「動かない・動けない」「打たれ弱い」なども挙げられます。それらの背景にある原因や理由を考え、そして「ユニーク・パーソン」としての発達障害の方との相互により良い働き方を、発達障害の基礎知識とともに、実際の労働環境を踏まえて具体的にどうすれば良いのか提案していきます。全体的にユーモラスな雰囲気で描かれていて、多くの人にとって読みやすく、入りやすい本だと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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