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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.36『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、36回目は『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』(渡辺一史著・ちくまプリマー新書)です。

渡辺一史さんは『こんな夜更けにバナナかよ』という、映画化もされた本の著者でもあります。この本は直接的にメンタルヘルスや心理学について書かれた本ではありませんが、著者が「障害者について考えることは、じつは健常者について考えることであり、同時に自分自身について考えることでもあります」と言うように、ここで取り上げられている事例と考え方は、メンタルヘルスを考える上でも非常に多くの示唆に富んでいますので紹介したいと思います。

本書でも触れられていますが、障害に関する考え方に「医学モデル」「社会モデル」というのがあります。「医学モデル」は「個人モデル」とも言われ、障害を個人の心身機能の障害によるものだと捉えます。一方で「社会モデル」は、障害をもたらしているのは、ある人が持つ心身の病気や怪我のせいというよりは、それを考慮することなく構成されている社会のせいである、と考えるモデルです。

例えば、車椅子を使用している人が、エレベーターがない、通路や入り口の幅が狭い、などによってお店に入れないとしたら、その環境こそが障害を生んでいる、つまり、障害は社会の側にある、と言えるわけです。この考え方は、メンタルのことを考える上でもとても重要です。個々の持つ特性ひとつひとつが問題なのではなく、ただ社会との関係性の中で何らかの生きづらさを生じているのだとすると、それは「自己責任」で片付けて良い話ではなくなります。誰かが生きづらさを感じているとして、それは社会や取り巻く環境の側に何か問題があるのではないかと考えてみる姿勢が必要なのです。

障害を考えるにあたって、本書ではさまざまなテーマに目を向けます。第一章は「障害者は本当にいなくなったほうがいいか」と、相模原障害者殺傷事件も踏まえて考えます。第2章以降はさらに具体的に「支え合うことのリアリティ」「障害者が生きやすい社会は誰のトクか」「障害と障がいー表記問題の本質」と踏み込んでいき、最後に本書のタイトルの「人と人はなぜ支え合うのか」について論じられます。そこまでの過程では、例えば「タバコを吸う障害者をどう考えるか」「アダルトビデオから介助を考える」「わがままな障害者が遺したもの」などのように、美談に終わるだけでないリアルなところにも目を向けていきます。

ちなみにこの「ちくまプリマー新書」は、主に高校生や大学生などのビギナーを対象としたシリーズですので、とてもわかりやすく入っていけると思います。この分野に馴染みがない人にこそおすすめしたい一冊です。

「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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