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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.37『差別されてる自覚はあるか〜横田弘と青い芝の会の「行動綱領」』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、37回目は『差別されてる自覚はあるか〜横田弘と青い芝の会の「行動綱領」』(荒井裕樹著・現代書館)です。

前回紹介した『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』の中でも触れられている「青い芝の会」という脳性マヒ者の協会について書かれた本です。これも直接メンタルヘルスや心理学について書かれたものではありませんが、皆がより良く生きていくということについて考える上で多くの示唆を与えてくれる本です。また一人の人間の壮絶な生き様と思考に触れるという意味でも、おすすめします。

「青い芝の会」は正式には「日本脳性マヒ者協会青い芝の会神奈川県連合会」と言い、1970年代から街頭カンパや座り込み、時に実力行使もともなった強硬な態度と運動によって、社会に多大な衝撃を与えた脳性マヒ者らによる運動団体です。その団体の指導的立場にいた横田弘氏を中心に書かれているのですが、彼は「我らは愛と正義を否定する」という強烈なテーゼを打ち出します。その言葉の後にもまた「われらは愛と正義の持つエゴイズムを鋭く告発し、それを否定する事によって生じる人間凝視に伴う相互理解こそ真の福祉であると信じ、且、行動する」と、非常に強い言葉が続きます。

この背景には、1970年に発生した、実の母親によって脳性マヒの2歳の子が殺害されるという事件があります。当時、この母親に対し「かわいそうだ」と同情する声が多く上がり、減刑を求める運動まで起きます。つまり「障害があって将来幸せになれそうもない子供について悩んだ母親が、愛情ゆえに殺してしまったのだから」ということです。

これに対し、横田弘氏らは減刑に真っ向から反対します。彼らには、この母親に対しても、社会からの支援のなかった被害者であるという意識はありました。しかしそれでも「障害者が誰かに生死を決められる社会はおかしい」と主張したのです。この指摘はとても重要・重大なことだと思います。相模原で起きた障害者の大量殺人の事件にも地続きの、気をつけなければ私たち皆が嵌ってしまう危険な落とし穴だと思います。

この著者は横田弘氏に「それで、君はどう思うの?」とたびたび問われたと言います。この会の主張や運動には賛否がありますが、「みんながこう言っている」ではなく、自分はどう考えるのか、きちんと考えなければならないと思わされる本です。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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