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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、38回目は『当事者・家族のための〜わかりやすい うつ病治療ガイド』(日本うつ病学会当事者のためのガイド小委員会・NPO法人地域精神保健福祉機構「コンボ」)です。

本書は、2012年に日本うつ病学会から発表され、2017年に改訂された「うつ病治療ガイドライン」を、当事者や家族向けにわかりやすいようにNPO法人「コンボ」の機関紙に連載されていたものに加えて、「当事者が一番知りたい情報は何か」を当事者に訊いて、そのテーマに対する解説も加えて作られたものです。例えば、当事者から寄せられた「うつ病の悪化や再発を防ぐための日常生活の心得やヒント、自分でできる対処法を知りたい」「抗うつ薬など薬物療法への具体的な対策を説明してほしい」「復職や就労も含めて、地域や社会から受けられる援助やサービスを教えてほしい」「職場や家族、友人などに病気のことを理解してもらう方法や、症状や状態の伝え方を教えてほしい」などの声に回答しています。

以前にも、この連載でうつ病に関する本は紹介していますが、この本の特徴のひとつは「おすすめできない治療法」に触れていることです。どういった治療法がおすすめされないのか、詳しくはぜひ本書で確認していただければと思いますが、うつ病の重さによって具体的な薬物療法や精神療法などを挙げて解説されており、巻末には簡易抑うつ症状尺度」や抗うつ薬や睡眠薬、抗不安薬の一覧表もあり、とても実践的です。

また、本書の基本には「共同意思決定」という考え方があります。かつては、医師が当事者にとって最善と考える治療を独断で決定していました。その後「インフォームドコンセント」、つまり医療者はさまざまな治療法を丁寧に説明し、当事者に最終的には決めてもらう、という考え方が現れます。ところが、気分が落ち込んでいたり、何かを考えることもしんどくなっていたりするうつ病当事者の方には、そのやり方でも困難が伴いますし、責任を当事者に押し付けてしまうようにも捉えられかねません。

そこで「共同意思決定」という考え方が登場しました。これは本書では「当事者と医療者が、選択可能なさまざまな治療案について情報を双方に共有して話し合い、当事者の好みや考え方、生活などにそった最適な選択を共に行なっていく過程」と説明しています。

誰もがメンタルに負荷のかかる社会状況が続いている昨今、多くの人に共有してほしい情報と知識がわかりやすく詰まった本です。この本は書店売りがないそうで、購入する場合は発売元のコンボ(https://www.comhbo.net)に連絡するか、Amazonでの取り扱いになるようです。また、さらに詳しくうつ病について知りたいという方には、日本うつ病学会のHP(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/)の「各種ガイドライン」で見ることができますので、こちらも同時にお薦めしておきます。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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