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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.52『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、52回目は『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』(筑波大学DACセンター監修/佐々木銀河編・解説/ダックス著・金子書房)です。

筑波大学のダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター(DACセンター)は、発達障害の学生だけでなく、身体障害学生・LGBTQ学生なども含めた、多様な学生に対する教職員の組織的な取り組みを支え、教職員の対応能力を向上するための教育拠点です。そしてこの本は、その広報担当として働く、発達障害当事者であるダックスさんによる発達障害啓発マンガです。2019年からTwitter(@UTsukubaos)で配信されていましたが、今年の10月に描き下ろしの漫画を加えて書籍出版されました。色々な発達障害を併せもつダックスさんと、ASDのネコさん、ADHDのトリさん、LDのサカナさんなどが登場して、とてもわかりやすく発達障害について説明してくれます。以下、本の帯に書かれた【主な内容】から引用します。

・「発達障害」という言葉に、私たちはどのように向き合うのか
・マンガ『発達障害とは?(ASD、ADHD、LD)』
・「発達障害」と名づけられることで、変わること、変わらないこと
・マンガ『発達障害のグレーゾーン』
・マンガ『当事者さん達の自己紹介漫画』
・大きな「苦手」の森の中にある小さな「得意」の芽を見つけ、育てる

発達障害当事者のさまざまな特性についてはもちろんなのですが、「障害」とは、「普通」とはどういうことなのか、再度考え直すきっかけを与えてくれる本です。

以前この連載のVol.36で紹介した『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』でも触れられていますが、障害に関する考え方に「医学モデル」「社会モデル」というのがあります。「医学モデル」は「個人モデル」とも言われ、障害を個人の心身機能の障害によるものだと捉えます。一方で「社会モデル」は、障害をもたらしているのは、ある人が持つ心身の病気や怪我のせいというよりは、それを考慮することなく構成されている社会のせいである、と考えるモデルです。また、Vol.3で紹介した『ニューロダイバーシティの教科書』で言われていましたが、「私たちはみんな神経多様者である。なぜならこの星の誰1人として完全に同じではないから」と考えると、単純に「普通か普通でないか」という二分法で人を捉えることはできません。

このマンガに登場するグレーさんは、自分のことを「普通のトカゲ」だと思っていましたが、大学に入ってから心身に不調が生じ悩むことになります。しかし、それまでの生活環境では「障害」が生じなかったのに、大学という新しい環境に入ってからうまくいかなくなったということは、グレーさんは生まれつきの「障害者」なのではなく、グレーさんの発達特性と周囲の環境が合わないことによって「障害」が生み出されると考えられます。そうした「障害」をなくすためには環境を変える必要がありますが、その時に、自分の発達特性と環境との関わりでの「得意」「苦手」「補助」を周囲の人・環境に説明することが大切だと本書では説きます。そして「全力を尽くしても環境が変わらない時はあるが、そんなもどかしい気持ちの紙飛行機を誰かが受け取ってくれる社会にしたいものだ」と言います。これは本当に大切なことだと思います。発達障害について考えることは、実は皆がより幸せに生きていける社会を作ることにつながっていくのでしょう。

また、マンガを通して発達障害を多くの人に理解・啓発するためCC0 1.0(パブリック・ドメイン提供)ライセンスを適用していて、このページ(https://dac.tsukuba.ac.jp/radd/joint-base/manga/)に掲載しているマンガ画像については著作権を気にせず、自由にダウンロード・複製・印刷・再配布・改変等をしてもよいそうですので、こちらも一度ご覧いただければと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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