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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.41『3ステップで行動問題を解決するハンドブック』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.40『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、41回目は『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』(大久保賢一著・Gakken)です。

「応用行動分析」と言うと少しややこしそうに感じてしまうかもしれませんが、本書は小学校教員歴3年のサクラ先生(本の中では「サクラ」)がケンイチ先生のレクチャーを受けるという形で、とてもわかりやすく、様々な行動問題を解決するための考え方が説明されています。

ところで「問題行動」ではなくて「行動問題」という言葉に、聞き慣れなさを感じる人もいるかもしれません。「問題行動」は「軽減・解消したい行動」とも言えますが、その行動が本人や周囲の人にとって問題であることを強調する側面と、その人自身に問題があることを示唆する面もあります。一方で「行動問題」は、行動上の問題そのもので、本人の特性と環境側の特性の相互作用によって生じていることが多いと考えます。

また「応用行動分析(Applied Behavior Analysis)」はその英語の頭文字をとって「ABA」と言われます。ABAは、日本行動分析学会の「学会の概要」から引用すると「人は、なぜそのように行動するのか、あるいはまた、なぜ行動しないのか」を分析し、職業的・社会的実践に適用しようとすることです。また、本書では「ABAの本質は、行動を理解する枠組みであり、行動に影響を与えるための原理原則」で、それ自体は特定の教育プログラムや治療法、あるいは、いわゆる「ハウツー」ではなく、問題解決に対しての「答えの導き出し方」を提供するもの、と説明されています。タイトルに「小・中学校で役立つ」とありますが、ここで提示される視点や考え方は、幅広い世代に対してもヒントになると思います。

例えば、本書では行動の理由を考える方法として、行動の「前(Antecedent)」、「行動そのもの(Behavior)」「後(Consequence)」に分けて整理する、「ABC分析」というやり方を紹介しています。これは「〜できない人」は「今、できていないだけ」と捉えて、「〜できている」姿に近づけるには今どうしたら良いか、ABCの3つに分けて整理して考える、というようなやり方です。一例として「ちゃんと掃除をしてください」と言ってもやってくれない子どもの例が挙げられているのですが、このとき「掃除ができない」と捉えるのではなく、「今は掃除をするという行動が起きていない状態」と考え、

A「指示を理解することができていない」→「掃除する時間と場所を目で見てわかるように示す」
B「その行動をすることができていない・やり方を知らない、スキルを身につけていない」→「具体的な手順を作って、はじめのうちはお手本を見せる」
C「(それまでの経験から)やる気になっていない」→「細々と注意し過ぎたのがいけなかった、今度はもっと褒めるようにしよう」

というふうに、効果的な解決策を導き出していきます。こうした方法は子ども相手だけでなく、いろんな場面でも有効なのではないでしょうか。

しかしこれらに関して、本書の「はじめに」の「何のためにその行動を変えるのか?」に書かれている言葉がとても重要です。以下引用します。

それは単純に「子どもに言うことをきかせること」や「扱いやすい子どもを育てること」をゴールにすべきではないということです。例えば、「自分の意見を押し殺して周囲に合わせる子ども」「大人の指示に無条件に従う子ども」「嫌なことを我慢し続ける子ども」などは、一見「扱いやすい」と思われるかもしれませんが、実はこれらの子どもはある意味で全て「行動問題予備軍」と言えます。

行動支援において重要なことは、「問題行動をやめさせること」や「言うことをきかせること」ではありません。「子どもの適応的な行動を育てること」であり「子どもが自らの人生の舵を取れるようにすること」なのです。何を問題と捉え、何を目標に設定するのか、その検討は全て「幸せに生きる子どもの姿」に直結していなければなりません。

この言葉も、すべての世代にも当てはまるように思います。皆が生きやすくなるための方法を探す一つの考え方として、多くの人におすすめできる本だと思います。


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Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
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Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
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Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
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Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
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Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
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Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
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Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

 

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