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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.44『吃音のことがよくわかる本』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、44回目は『吃音のことがよくわかる本』(九州大学病院耳鼻咽喉科医学博士・菊池良和監修・講談社)です。最近、テレビ番組の「水曜日のダウンタウン」の放送内容について、NPO法人「日本吃音協会」が「吃音者に対する差別偏見を助長するもの」として抗議文を送ったことが話題となりましたが、その是非を問う以前に、そもそも社会的に吃音に関する基礎的な理解が広まっているとは言えない状況だと思いますので、とてもわかりやすく書かれたこの本を紹介したいと思います。また、Rolling Stone Japanでの連載「世界の方が狂っている」の方でも取り上げていますので、そちらも参照していただけると幸いです。

著者の菊池良和氏自身も吃音に悩まされていたことをきっかけとして、医師になることを決意されたそうです。「まえがき」では「『吃音の本を出版する意義は何か?』と問われたら、私は『誤解だらけ・偏見だらけの吃音の現状を解消するため』と答えるでしょう」と書かれています。この本の冒頭に、吃音についての最新知識に関するチェックがあります。それを引用してみますので、正しいと思うものに○を、間違っていると思うものに×をつけてみてください。

1 話し方を真似ていると吃音になる
2 子どもが吃る最大の原因は育て方の問題
3 3年以内に6〜8割はどもらなくなる
4 男の方が女の子より回復しにくい
5 すらすら話せる時があれば治ったといえる
6 「ゆっくり話そう」とアドバイスすべき
7 家庭で吃音の話題はタブー。本人に意識させてしまう
8 吃音のある子の半数以上はからかわれた経験がある
9 吃音が減らなければ機械を使ったこと訓練が必要
10 吃音を隠す工夫はしない方がよい
11 治るかどうかは本人の性格と努力次第
12 吃音は発達障害に含まれない

答えは、1× 2× 3 ○ 4○ 5× 6× 7× 8○ 9× 10○ 11× 12×

になります。それぞれの理由に関してはぜひ本書で確認していただければと思いますが、大事なことは当事者も、保護者や周囲も「どもっていてもいい」と思えることだといいます。すべてのメンタルヘルスに共通することですが、「自分らしくいられること」はとても重要なことだとここでも確認させられます。

また、先ほどの質問項目にもありましたが、本書では「どもり」という言葉を使っています。これについては以下のような考え方と立場であると書かれていますので最後に引用しておきます。

「どもり」と言う人格を指す用語は、近年、差別用語として配慮され「吃音」ということばが使われるようになっています。しかし「どもる」という動詞は、人格そのものを表す用語とはいえず、ほかに置き換えることばもありません。本文中で使用している「どもる」「どもってもいいんだよ」ということばは、吃音のある人がふだん使っていることばであり、本書でもそのまま記載しています。

 


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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