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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.47『学校の中の発達障害』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、47回目は『学校の中の発達障害』(本田秀夫著・SB新書)です。本田秀夫先生の著書は以前にも紹介していますが、今回出たばかりのこの本も非常にわかりやすく、また、発達障害のことのみならず、教育とは、社会とは、ということを考えさせられる内容になっています。

本田先生には数多くの著書がありますが、このSB新書のシリーズではこれまで『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』『子どもの発達障害』と発表されています。そこでは、発達障害の特性についてわかりやすく説明がなされていて、その上で「その特性に合った生活を整えれば、生きづらさは軽減する」と述べられています。ただその一方で「考え方は理解できたけれど、学校や社会で理解してもらうのは大変」という声もあったそうで、そうしたことも受けて今回は「発達障害の子の学校生活をサポートするコツ」について書かれています。

実際にどのようなコツがあるのかということに関して、様々な場面や事象に対して数多く紹介・説明されていて、そのどれもが紹介したくなるものですので、ここでその一部を書くよりも実際に読んでいただくのが一番だと思いますが、あまり多くの方に知られていないけれど実は皆に無関係ではない法律のことについては、これを機会に紹介しておきたいと思います。

日本には「障害者差別解消法」という法律があります。この法律は2021年に改正され、障害がある人に「合理的配慮」を提供することが、民間事業者においても「努力義務」から「法的義務」となりました。合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように行動したりサービスの提供を受けたりできるよう、過度の負担にならない範囲でそれぞれの違いに応じた対応をすることですが、これが国や自治体だけでなく、私立学校や一般企業、そして個人事業主まで、提供する義務があると法的に定められたのです。つまり、「ほぼ全ての人が合理的配慮を行わなければならない、誰もが法的にも無関係ではない当事者である」と明確に記された、とも言えるのです。

仮に、合理的配慮に関して過重に負担になると判断した場合には、障害者にその理由を説明し、理解を得るように努めなければなりません。全ての人が相互に良い関係を維持していくためにも、社会には様々な特性を持つ人がいる、不適合な環境に置かれている様々な人がいる、ということの基礎的な知識や情報を、これまで以上にもっと広く共有してくことが大切になると思います。

本書の中で著者は「共生社会とは、相性最悪な人たちがお互いにリスペクトする社会」「人間は分かり合えないこともあるが、それでもお互いにリスペクトすることはできる」と言います。この考え方は、障害というテーマだけでなく、現代社会に生きる人々全員にとって大事な考え方だと思います。そして、ここで紹介される「コツ」は障害がある人だけではなく、全ての人が幸せに生きていくためにも有用なことばかりですので、ぜひご一読されることをお薦めします。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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