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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.49『ラブという薬』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、49回目は『ラブという薬』(いとうせいこう・星野概念著/リトルモア)です。

いとうせいこうさんと、ミュージシャンで精神科医の星野概念さんとの対談形式の本です。星野概念さんのカウンセリングを受けているという、いとうせいこうさんが冒頭で「診察室で話してることが面白いから。星野くんと話してると、自分自身のことも、この社会のことも、どんどんクリアになっていく感覚があって、それをみんなと共有したかった。あとは、精神医学とかカウンセリングってこんな感じなんだよってことを、世間にわかってほしかった」と語っている通りの内容です。

全体として緩い空気が流れていて、それでいて専門的なこともかなりわかりやすく話されています。しかし、そんな中でも現代社会に潜む様々な問題もさらりと考えさせられるようで、いろいろなことがじんわりと沁みてくるような印象です。

僕も日頃から、より気軽に精神科や心療内科へ行ってみることをお勧めしています。それにはいくつか理由があるのですが、その辺りも本書でも触れられています。ひとつは「怪我をしたら外科へ行くような単純さで、つらいなら精神科へ行こう」と本書で語られているように、こころの問題も病気や不具合の一種だからです。それならば「重くなる前に」病院に行く方が良いのです。なんでもそうですが、病や怪我は軽症なうちに病院に行けば行くほど回復しやすくなります。精神的な不具合も「脳の病・怪我」ですから、全く同じことなのです。

もうひとつの理由は「医者との相性を早いうちから知っておく」ことが有効だからです。実は他の病気の場合は自然とそのようにやっているのです。例えば熱が出たので地元のある病院に行ったけれど、自分には合わなかった、ということを何度か繰り返して、最終的に行きつけの病院が定まってきた、ということは少なくないのではないでしょうか? それと同じことが精神科や心療内科にも言えます。特にこの領域は正直なところ「医師との相性」が他の医療よりも重要です。早いうちから、どこの病院の先生が自分と相性が良いのか、知っておけると安心です。

そして、本当に具合が悪くなってからでは、病院を探すのも、正確な判断をするのも、場合によっては会話をすることも動くことも難しくなってしまいます。さらに、そんな状態の中でやっとの思いで診療の予約の電話を試みても、診察できるのが1〜数ヶ月後と言われてしまうことが多々あるのも実情です。なので、なおのこと程度が軽いうちにかかりつけの病院を作っておけることが大切なのです。

帯には「『きつい現実』が『少しゆるい現実』になりますように」「悩んでいていい、弱くていい、精神科に行ってみるのもアリかも、と気持ちが楽になる」と書かれていますが実際に、そうした気持ちにさせてくれる本だと思います。良い意味で気楽に読めるおすすめの一冊です。

※僕は以前星野さんを含めた鼎談に参加させていただいたことがあります。よろしければぜひこちらもご一読ください。

アーティストとスタッフの「こころ」をケアする「メンタルヘルス」対策のすすめ
(音楽主義〜すべての音楽好きのための音楽制作WEBマガジン 2020.12.01)


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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