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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.50『なぜアーティストは壊れやすいのか?〜音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、今回はちょうど50回目ということで、自著で恐縮ですが『なぜアーティストは壊れやすいのか?〜音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(SW)を紹介いたします。

内容としては「カウンセリング入門」とあるように、カウンセリングや心理学、メンタルヘルスに関する基礎的なことをまとめたものになります。ただ、自分が現在も含めて長く音楽に関係する仕事に携わってきて、そこで得た体験や音楽に関する知識などと関連させて書いているところが、あまり他にない特徴だと思います。以下、産業カウンセラー協会の機関紙「JAICO」(2020年4月)で取り上げていただいた際の書評から引用します。

産業カウンセラーであり、ミュージシャンでもあり、新人発掘のプロデューサーとしても活躍する著者のカウンセリング入門書である。うつ病やパニック障害、発達障害などメンタルヘルス対策にも必要な病気の知識、有名な心理学実験などもわかりやすく説明されている。ただ他と大きく違うのは、関連するミュージシャンなどの音楽情報がちりばめられていることだろう。

もちろんアーティストのメンタルに対する考察にもページを割いているが、より面白いのは音楽業界と心理学に巧みに橋をかけて双方を手堅く説明していることだろう。それもロックの大御所から近年ヒットしたJ-ポップまでと幅広い。学問としての心理学に文化としての厚みが加わったように感じる読後感は、他では得難い面白みである。

「音楽業界と心理学に橋をかける」ような形にしたのには、2つの理由があります。ひとつは、自分が音楽産業と関わってきた中で、アーティストやスタッフたちがメンタルに問題を抱えてしまう事例を多く見てきたからです。にもかかわらず、この業界に精神医学やカウンセリングなどに関する知識の共有がなされていないことに気づき、できるだけ多くの人に知ってほしいと思ったのが、まず1番の理由になります。

もうひとつは、「アーティスト」という切り口をきっかけに、当事者でなかったり、一見無関係のように見えたりする人にも関心を持ってもらえるかもしれない、という期待もあったからです。どんなことでもそうですが、何かの問題の当事者・関係者は、その問題についてどんどん詳しくなっていきます。しかしその一方で、そうでない人はその問題について何も知らないまま、ということになりがちです。実際の問題解決には、当事者だけでなく、周囲の人や社会の理解がとても重要であるにもかかわらずです。そこで「アーティスト」という、無関係の人にも興味を抱いてもらいやすい存在の力を借りられないだろうか、とも思ったのです。

この本が出たのは2019年の9月のことで、今から約3年前になります。その後世界はコロナ禍に突入し、その影響もあってか、音楽・芸能の世界でも悲しいニュースが報じられてしまうこともありました。そのためにこの本が注目されるという皮肉なことも生じ、著者としてはやや複雑な心境にもなりました。一方で、日本の音楽・芸能の世界でも、積極的にメンタルヘルスをサポートしていこうという動きも現れはじめたのは歓迎すべきことだと思います。例えばソニー・ミュージックは「B-side」という支援プロジェクトを始めました。こうした動きが、さらに広がっていくことを期待したいと思います。

また、そうした動きの一方で、自分としてはより草の根の、例えばライヴハウスやリハーサル・スタジオなどのような場所での発信を増やしていきたいと考えています。「カルチャー(Culture)」という言葉の語源は、ラテン語の「耕す」という意味からきているそうです。文化を大きな草木や果実のように育てていくには、まず健全な土壌とそれを耕すことが必要です。とかく「どうやったら大きな草木や果実を収穫できるか」ばかり議論になりがちな昨今ですが、果実を採ってばかりで土壌を放置してしまえば、いずれその草木は枯れてしまうでしょう。だから、生活やストリートに根差したところを少しずつ豊かにしていくことが必要なのだと僕は考えています。おかげさまで最近いろんなところからお声掛けいただけるようにもなりました。興味を持たれた方は、僕のSNSやHPを通して気軽にお声かけいただければと思います。よろしくお願いいたします。

SONY MUSIC 「B-side」
https://www.sme.co.jp/pressrelease/news/detail/NEWS001675.html

手島将彦 website
https://teshimamasahiko.com

twitter
https://twitter.com/masa_hiko_t


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

 

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