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StoryWriter

皆さんこんにちは。

花粉の気配を感じ、むず痒い日々を送っています。

春夏秋冬これといって好きな季節はないのですが、春と秋は花粉に殺され夏は半袖を着なきゃいけない萎えポイントが追加される日々を送る季節なのでなんだかんだ冬が好きなのでは…… と自分の気持ちに気付きつつあります。

冬はコートやマフラーだったりといつも家出る1分前に服を決め始めるのでそれはそれで時間との勝負になり大変なのですが、長袖という布面積の多いものに包まれている安心感は最高なものです。

今年はそこまで寒い日は少なく、もう春の兆候を感じ始めているので勘弁してくれと思いながら日々を過ごしています。

刺激的な映画を観ながら穏やかな実生活を生きたい。そんなこんなで今週はこちらの映画を観てきました。

Vol.35『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

☆3.7/☆5.0点中

公式ページ:http://www.bitters.co.jp/yaneura/

 

1970年代、ハンブルク。

留年が決定したペトラがカフェでタバコを咥えると、突然、男が火を差し出してきた。男はペトラが去った後も、その後ろ姿をじっと見つめている。

バー〈ゴールデン・グローブ〉。

カウンターの端にいつもフリッツ・ホンカは座っていた。女に酒を奢ろうと声を掛けても、「不細工すぎて無理」と振られるだけ。注文もせずにひとりでポツンと座る中年女にフリッツが一杯奢ると、そっと横にやってくる。「私はゲルダ。ありがとね」フリッツとゲルダは店を後にする。

フリッツの部屋。

ゲルダには30歳になる独身の娘がいるらしい。「ぽっちゃりして、可愛い子よ。肉を売っているの」「面白いな。娘を連れてこい」ゲルダの娘に会うことを夢想するフリッツ。

ゴールデン・グローブ。

いつまでたってもゲルダは娘を連れてこない。フリッツは3人で飲んでいる娼婦たちに声をかける。「俺の家に来い。酒ならいくらでもある」ひたすら酒を飲み続ける女たちは、言われるままにフリッツの家へ入っていく。

ある日、フリッツは車に突き飛ばされる。

それを機会に禁酒するフリッツ。

夜間警備員の仕事につき、真っ当に生きようと心に誓うのだった……。

ドイツの名匠ファティ・アキン監督の最新作。70年代ハンブルクで実際に起きた連続殺人事件の犯人フリッツ・ホンカの物語。
第二次世界大戦前に生まれ、敗戦後のドイツで幼少期を過ごし、貧しさと孤独の中で大人になった男が、70年から75年に渡って4人の娼婦を殺害しながら過ごす日常を淡々と描いています。知性溢れる天才犯罪者でも、何かに取り憑かれた狂人でもないごく普通の連続殺人鬼という、かつて味わったことのない、すぐ隣にいるかもしれない恐怖が潜んでいる。

主演を務めるヨナス・ダスラーは『僕たちは希望という名の列車に乗った』でバイエルン映画賞新人男優賞を受賞した若手実力派俳優。素顔はとてもハンサムな方なのですが、今作では実年齢より約20歳も年上、不快感満載で不細工なフリッツ・ウォンカを見事に演じています。『僕たちは希望という名の列車に乗った』を観ていたので、本当にヨナス・ダスラーが演じているのか疑ってしまうほどの変貌ぶりで驚かされました。彼の不気味な演技を観るだけでも価値があります。

主人公フリッツ・ホンカの顔面は醜く、そして彼の行きつけの場末のバーで酔い潰れ底辺の生活をしている様な負のオーラを漂わせたおばさんなど登場人物は全て美しさからかけ離れた者ばかり。そんな酒場でホンカが物色した売春婦を家に呼び込み酒を飲ませ、性行為を無理強いし、暴力を振るい仕舞いには撲殺し遺体をバラバラに切り刻み屋根裏部屋に押し込む。そんな彼の犯行の数々を容赦なく胸糞悪く描いた映画です。

昨年公開の映画の中で一番濃く記憶に残っている『ハウス・ジャック・ビルト』を観たときのような感覚もありつつ、それとも少し違う感覚もある。今作品がこれまでのシリアルキラーと違う点はフリッツ・ホンカは元々天才でもなく殺人のカリスマ性も一切無い。能力ゼロの、ただ酒を飲むと理性がぶっ飛び暴力性が顔を出し成り行きで殺してしまう、”人間に潜む狂気”を描いたものでした。今までの映画で見てきたようなシリアルキラー達とは別の、生い立ちが父親から暴力を受け育児放棄され誰にも受け入れられず貧しく生きてきた彼から漂う人間味がよりいっそう気色悪さを醸し出しています。

この作品を観るに当たってひたすらにグロテスクさを期待して鑑賞したのですが、遺体をバラバラにする殺戮シーンはあるもののR-15指定なのでまあまあなグロさ。胸糞悪い映画が大好きな私としてはR-18指定にしてとことん最悪な殺人を観たかった気持ちがあるのですが、それでも充分に気持ち悪さが画面一杯に広がっていて生活感が生々しく、どこかシュールでスクリーンから臭いが漂ってきそうな、妄想が膨らむとても良い不快感でした。

汚い部分を包み隠さず描いた淡々とした”ただの日常”にある、ありのままの人間であり劣等感だらけの殺人鬼。弱者同士の救いのなさに悲しくなったり、残虐さに気持ち悪くなったり。共感性はないのですが、なんだか他人事とは思えない感覚にむず痒くなりました。

とてもクセの強い好き嫌い分かれる作品ですが、とにかくストーリーがどうこうの前にヨナス・ダスラーが衝撃的で素晴らしいので是非観て頂きたい。彼の普段の顔を見てからの鑑賞をオススメします。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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Vol.7『チャイルド・プレイ』
Vol.8『アンダー・ユア・ベッド』
Vol.9『存在のない子供たち』
Vol.10『永遠に僕のもの』
Vol.11『ゴーストランドの惨劇』
Vol.12『惡の華』
Vol.13『アス』
Vol.14『人間失格 太宰治と3人の女たち』
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テラシマユウカ


2014年に結成され、現在10人組として活動中のアイドル・グループGANG PARADEのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

テラシマユウカ Twitter

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