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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』

「HSP(Highly Sensitive Person)」という言葉を近年よく目にするようになりましたが、科学的根拠に基づかない誤解や誤情報が拡散されてしまっている現状があります。著者はHSPを専門とする研究者ですが、そのような風潮に対してきちんと学術的な考え方を踏まえた発信をSNS等を通じて行ない続けていた方で、こうして科学的根拠(エビデンス)をもとにしたHSPに関する情報が書籍の形で社会に発信されたことはとても良いことだ思います。

まず、HSPの定義について、本書では次のように書かれています。

・HSPは環境感受性という特性がとても高い人たちを表す言葉である。

・環境感受性とは、ポジティブとネガティブの両方の環境からの影響を受けやすさ(環境からの情報を処理したり気づいたりする傾向)を表す特性である。

・したがって、HSPはポジティブとネガティブ両方の環境から「良くも悪くも」影響を受けやすいという特徴がある。

つまり「悪い環境」ではその悪い影響を受けやすく、「良い環境」であれば良い影響を受けやすい、ということで、必ずしも「HSPは生きづらい」ということではありません。

また、この本は最初に「HSPにまつわる誤解をひも解く」という章からはじまります。その目次のタイトルも引用してみます。

・HSP診断テストにまつわる誤解
・HSPは生きづらいという誤解
・〇〇型HSPについての誤解
・HSPと遺伝にまつわる誤解
・HSPあるあるについての誤解
・HSPは能力という誤解
・HSPは脳の炎症という誤解
・HSCは学校が苦手という誤解
・HSPは魂のレベルが高いという誤解
・HSPはミラーニューロンの働きが強いという誤解

これまでにHSPについて何らかの情報に触れてきた方の中には、上記の誤解には「え? そうなの?」と思う方もいるかもしれません。それらについて、本書ではとても丁寧にわかりやすく解説していきますので、多くの人の誤解が解けることを期待したいです。

また、HSPの特徴は、発達障害や精神疾患での過敏性と似ているケースも多々あります。両者の関連については今のところはっきりしたことはわかっていないそうですが、その上で、HSPの研究者である著者は「日本のHSPブームで取り上げられる『生きづらさ』は、発達障害分野や精神医学分野によるアプローチの方が適しているのではないかと思う場面も多々ある」と言い、日常生活に支障をきたすほどの「生きづらさ」を感じているのであれば、HSPという言葉に出会って「自分はこれだ」と思った人でも、精神疾患や発達障害の特徴にも当てはまっていないか探ってみること、精神神経科の専門家に相談すること、をすすめています。

著者は「HSPをゴールにではなく、スタートにしてほしい」と言います。それは「自分がHSPだとわかった」で終わるのではなく、それならばどうしたら良いか、普段の生活環境を見直してみたり、心理学を学んでみたりして活かしてほしい、ということです。僕もこの連載でもこれまでに50冊以上の本を紹介してきましたが、まさに同じことを思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
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