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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、56回目は『女の子だから、男の子だからをなくす本』(ユン・ウンジュ著/イ・ヘジョン絵/ソ・ハンソル監修/すんみ訳/エトセトラブックス)です。

この本はジェンダー規範(男女二元論・異性愛主義など)に基づいた社会の価値観にとらわれない考え方や知識を子どもたちに身につけてもらうために出版されました。つい大人たちは、これまでの価値観に縛られて「女の子だから、男の子だから」「子どもだから」と決めつけて、子どもの行動や思考を制限してしまうことがあります。子どもたち向けに書かれた本ではありますが、むしろ大人たちが一度読んでみるべき本だと思います。この本の背表紙には、次のように書かれています。

「女の子は女の子らしく」「男の子は男の子らしく」ってことばを聞いたことがあるかな。
<性別>によって行動が決められているという意味なんだって。
でもちょっと待って。
一体そんなことだれが決めたわけ!?

そんなみんなをしばる「きめつけ」をいますぐやめるために、
なにがまちがっていて、どうしたらみんなが自由になれるかを知ろう。
そうすれば、きっと女の子も男の子もステキな人になれるから。

ジェンダー・ギャップ、そしてジェンダーに縛られている社会に対しては、多くの女性アーティストたちからも批判の声が上がっていますし、データとしてもその不平等さが指摘されています。また男性も、社会から求められる「男らしさ」に苦しめられています。これらについては以前僕の連載の「女性のうつ病有病率は男性の2倍、SNSと埋まらないジェンダーギャップの相関」「社会から受ける『男らしさ』というプレッシャー、助けを求められずに陥るアルコール依存」という記事でも取り上げました。また日本でも最近では「表現の現場調査団」が美術・音楽・演劇・文学などの表現の現場でのジェンダー・バランスについて調査をしていますので、これらも参照していただければと思います。

性に関することだけでなく、この連載でこれまで紹介してきた発達障害、そしてニューロダイバーシティの考え方などを踏まえると、人の在り方はとても多様であることが事実として明らかです。その事実をきちんと知り、受け入れていくことがこれからは特に大切なことで、それは皆が「ステキな人」になることに繋がっていくのだと思います。

ちなみに下記は「家の中の女と男」という章でのチェック項目の引用です。家族にチェックしてもらったところ、ほとんどの項目で僕が少なくとも半分かそれ以上は関われていると認めてもらえました。皆さんはいかがでしょうか?

1 よう服をせんたくきに入れて、回して、ほして、たたんで、タンスにしまうのはだれ?
2 使ったタオルをあらい、たたんでタオルラックにおくのはだれ?
3 朝ごはんをつくるのはだれ?
4 朝ごはんをテーブルにならべてごはんができたとあなたをよぶのはだれ?
5 朝ごはんを食べたあと、お皿をあらうのはだれ?
6 食事のために買いものをするのはだれ?
7 ゴミばこのゴミをすてて、新しいゴミぶくろをセットするのはだれ?
8 あなたになにかあったとき、学校の先生がそうだんするのはだれ?
9 あなたの宿題をてつだってくれるのはだれ?
10 学校に行くじゅんびをてつだってくれるのはだれ?
11 そうじきをかけるのはだれ?
12 ぞうきんをかけるのはだれ?
13 ゆうはんをつくるのはだれ?
14 ゆうはんを食べたあとに皿を片づけあらうのはだれ?
15 おふろをそうじするのはだれ?
16 せっけんとはみがきこが切れていないかかくにんし、買ってくるのはだれ?
17 家族のたんじょう日やきねん日をわすれずに、いわってくれるのはだれ?
18 あなたといちばんたくさんの時間をすごしているのはだれ?
19 あなたになやみがあったとき話を聞いてくれるのはだれ?


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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