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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』

メンタルヘルスや心理学などに関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、57回目は『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』(本田秀夫監修・大島郁葉編・金剛出版)です。まず、タイトルが「自閉スペクトラム症(A S D)」ではなく「自閉スペクトラム(A S)」であるところが特徴です。ASDではなくASなのは、「医学的な疾患概念ではなく、ヒトの認知や思考のあり方」「病気・障害・ハンディキャップ」の視点とは独立した、いわば「種族」としてAS特性の本態を捉えようとする本書の意図が表れています。以下、出版社の内容紹介を引用します。

かつて,自閉症は子どもの精神疾患とされた。研究者の関心はもっぱら他覚的に認識される「症状」と「経過」にあり,症状の軽減や社会参加といった「定型発達」の価値観に立脚した治療/支援が主流であった。

しかし近年,その特性が生涯続き,様々な表現型を示すスペクトラムであることが示されている。さらには,特性を疾患ではなく多様なヒトの変異のあり方(ニューロダイバーシティ/ニューロトライブ)と捉える考え方が急速に拡がっているが,一方で,多くの成人当事者がメンタルヘルスの問題を抱えて悩んでいることも指摘されている。

本書では「自閉スペクトラム症(ASD)」ではなく「自閉スペクトラム(AS)」をキーワードとし,さらに「おとな」と「メンタルヘルス」を加えて,ニューロトライブとしてのASの人の価値観に基づく成人期のメンタルヘルスの意味を構築することを目指す。

各章では,ASの人達の臨床像の広さや魅力,診断と具体的な支援などについて紹介され,読者のニーズに応じて多様な観点から学べるガイドとなっている。支援者はもちろん,当事者や家族,当事者と関わりの深い人達にとって必読の書である。

本書で取り上げられているテーマは非常に多岐に渡りますので、それについては出版社等で紹介されている目次を参照していただければと思います。それぞれの章ごとに独立して読めますので、興味のあるテーマから読み始めるのでも大丈夫です。また、「おわりに」で書かれているように「本書は『AのときはBをしよう』と言った教科書的な『ASDの支援本』ではない、より当事者性の高い心理社会的なテーマが豊富に記述」されています。

そして同じく「おわりに」から引用します。

ASの人だけが、定型発達的な価値観に必死で合わせるというアンフェアな時代はそろそろ終わりにして、さまざまな人が「違ったまま」共生するという姿勢を、社会が推奨していくべきだと思います。

変わるべきはASの人ではなく、旧来の価値観に縛られた画一的な社会ではないでしょうか?

これは、発達障害だけでなく、全てに通じることだと思います。そして、いろいろな人の在り方を知ることで、共生の方法を見出していけるのだと思います。就労なども含めたさまざまな「おとなの」ライフステージに対して科学的かつ具体的な記述がなされている本書は、新たな社会構築のための学びに最適な一冊でもあると思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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