産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。
『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』
メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、59回目は『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』(情報文化研究所(米田絋康/竹村祐亮/石井慶子)著・高橋昌一郎監修・フォレスト出版)です。
これは以前この連載のVol.11で紹介した『認知バイアス事典』の続編になります。前作が「論理学」「認知科学」「社会心理学」の分野からのアプローチでしたが、今回は「行動経済学」「統計学」「情報学」からさまざまな「認知バイアス」を紹介・説明しています。
まず「認知バイアス」とは、本書の説明では「偏見や先入観、固執断定や歪んだデータ、一方的な思い込みや誤解などを幅広く指す言葉」です。そして今回取り上げられている、行動経済学・統計学・情報学に関わるバイアスは、「誤った方向に導いて、『具体的に損をさせる』可能性が高い」と言います。
例えば一番最初に紹介されるバイアスは「アンカリング」というものですが、これは「ある答えに誘導してしまう、何らかのきっかけによって生まれた情報のこと」です。そして次のような問題が提示されます。
0.1mmの紙を100回折り曲げると、どれくらいの厚さになるか?
実際に計算する前に、どのくらいの数値を想像したでしょうか? 答えは1.27×10の23乗Km、つまり、なんとゼロが23個も続くほどの厚さになります。おそらく多くの人は、計算する前には「0.1mm」という数字の小ささに引っ張られて、そこまで大きな数字を考えなかったのではないでしょうか。このような、本質的ではない、もしくは無意味な情報が判断を左右する効果を「アンカリング」と呼びます。こうした具体的な事象も挙げて、さまざまなバイアスを説明していきます。それぞれの章で独立したテーマになっていますので、興味関心の向いたところから読み始めるのでも大丈夫です。
本書の帯には「思っているほど、あなたは賢くないし、あなた以外は愚かじゃない」とあります。SNSなどで大量の情報や意見の中で生活している私たちにとって、この言葉はとても大事なことのように思います。自分も社会も誤った方向に導かないためにも、こうした「認知バイアス」の存在が意識されることはとても大切なことです。ここに紹介されているバイアス全てを憶えて理解することはできなくても、少なくともそうしたバグが生じるのだ、ということを知っておくだけでも、様々な問題を生じさせずに済むかもしれません。また、単純に知的な読み物としてもわかりやすく面白く読めるので、そうした意味でもおすすめです。
「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!
Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担
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