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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』

メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、60回目はマンガで『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』(原作・中村創/漫画・水谷緑/医学書院)です。

サブタイトルに「教えて看護理論家の先輩たち!私の役割って何?」とあるように「看護理論」を、精神科に入職した新人看護師の成長の家庭を描くマンガの形で紹介しています。正直に言いますと、僕はこの「看護理論」というものにまったく疎かったのですが、読んでみて全ての心理職や支援職の人、さらに身近にメンタルの問題を抱えている人がいる人にとって、とても重要な理論だと思いました。ここで紹介・説明されている理論には、以下のようなものがあります。

・オレム&アンダーウッドの「セルフケア理論」
・ペブロウの「対人関係理論」
・トラベルビーの「人間対人間の看護」
・ウィーデンバックの「援助へのニード」
・レイニンガーの「文化ケア理論」
・ロイの「適応システム」
・阿保順子の「保護膜モデル」
・ベナーの「ラダー理論」

マンガの形式をとっていますのでこれらの理論がとてもわかりやすく、しかし情報量は豊富に解説されます。全ての理論がとても大切な内容なのですが、多様性という言葉が広く使われるようになった昨今、この中からレイニンガーの「文化ケア理論」について、本文から引用してごく簡単に紹介してみます。

文化は、その人自身と密接に重なり、普段その影響下にあることすら意識に上りません。「どのように考えるべきか」「どのように行動すべきか」「どのように感じるべきか」といった規範にも影響を与えています。臨床現場で相手の文化をないがしろにすることは、相手を見ていないということです。(中略)文化が違うから理解し合えない訳ではありません。一見「おや?」と思ったり「問題だ」と感じるようなことも、その人の文化(価値観、信念、生活様式など)では全く問題ないことも多々あります。ですからその現象が、相手にはどういう意味をもたらしているのかを考える必要があります。

これは、この連載でこれまでに取り上げてきた書物の多くに共通することです。例えば、以前Vol.3の『ニューロダイバーシティの教科書』では「私たちはみんな神経多様者である。なぜならこの星の誰1人として完全に同じではないから」という言葉が紹介されていました。他にも発達障害やジェンダーに対しての考え方でも、単なる二項対立的な見方や、多数派に寄った考え方、「普通は」という発想の危険性など、全てに通じることだと思います。自分自身の準拠枠から離れて、「ひとりひとりをきちんとみる」ことが重要なのだと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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