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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.65『10代からのメンタルケア「みんなと違う」自分を大切にする方法』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.65『10代からのメンタルケア「みんなと違う」自分を大切にする方法』

メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、65回目は『10代からのメンタルケア『みんなと違う』自分を大切にする方法』(本田秀夫著/ KADOKAWA)です。

発達を専門とする精神科医の本田秀夫氏によるこの本は、タイトルに「10代」とありますが、その保護者も含めて全ての大人たちにも生き方のヒントになるような内容です。「自分のタイプを知る」「『友だち』ってなんだろう」「『努力』ってなんだろう」「『普通』ってなんだろう」「『みんなと違う』自分との向き合い方」の5章に分かれていて、それぞれのテーマごとに10代の人が生活の中でぶつかる具体的な悩みがいくつも取り上げられ、それに対してとても簡潔にわかりやすく、対処法や考え方がまとめられています。目次を見て自分が気になったところから読んでいくのでも大丈夫です。

特に、様々な悩みや問題に通底しているのが「普通」ということが生む呪縛です。著者は「『普通』は時代や環境によってコロッと変わる」「普通=正しいではないと覚えておこう」と言います。そして、「『普通』というのは、人生に必要ない価値観。そんなことよりも「自分らしさ」を大切に」と言い切ります。帯の背面側にはこのように書かれています。

誰かの「普通」に合わせることはもうやめていい。
「普通」を捨てるのは、何かをあきらめることに似ています。でもそれは、あなたが「本当に大切にしたいもの」を明らかにするための、前向きな行動です。誰かが決めたルールにしばられて、自分のよさを消してしまわないように。みんなとの「違い」を見ながら、ゆっくりと自分らしさを見つけて、大切にしていきましょう。

しかし一方で著者は「『そのままの君でいい』と言いたいわけでもない」とし、「伝えたいこと」を次のように言います。

私がみなさんに伝えたいのは、「あなたは変わることも、変わらないことも選べます」ということです。
そもそも人生は、変わるか変わらないかの二択ではありません。「この部分は変えるけど、ここは変えない」という選択をすることも多くあります。
そういう意味では、みなさんには「変えなくていい部分」を見極めてほしいと思います。

こうした考え方は、10代に限らず全ての世代にとってもヒントになるのではないでしょうか? そしてこれは逆に「普通」を安易に押し付けてしまう社会の側や「多数派」の方こそ、変化が必要だということでもあると思います。

最後に、本書で取り上げられている20の「悩み」を紹介しておきます。10代の頃はもちろんですが、今の自分を振り返ってみても、この中の悩みがいくつも当てはまりました。皆さんにもこの中に心当たりがある「悩み」があるのではないでしょうか。

1 みんなは楽しそうに話しているのに・・・
2 友だち関係でモヤモヤする
3 仲のいい友だちが一人しかいない
4 悩んでいるけど、友だちにも言えない
5 部活や係の仕事を引き受けすぎる
6 どこのグループにも入れない
7 なぜか急にグループからハブられた
8 遅刻や忘れ物が多くて叱られる
9 親や先生に「片付けなさい」と言われる
10 夏休みの宿題がいつも終わらない
11 人の話をちゃんと聞けない
12 部活でみんなのようにがんばれない
13 自分に自信が持てない
14 「普通はこうでしょ」と言われる
15 「友だちと一緒」がときどきしんどい
16 一人が楽なのに心配されてしまう
17 そもそも友だちがつまらなく感じる
18 「自分らしさ」を親が認めてくれない
19 勉強や人間関係がうまくいかない
20 「自分は発達障害かも」と思った


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』
Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』
Vol.61『「自傷的自己愛」の精神分析』
Vol.62『トランスジェンダー問題〜議論は正義のために』
Vol.63『改訂新版―カウンセリングで何ができるか』
Vol.64『家族心理学〜家族システムの発達と臨床的援助』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
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