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StoryWriter

こんにちは、テラシマユウカです。

映画館が再開してからしばらく経ちましたが、この期間に映画館を訪れた方はどのくらいいるのでしょうか?

1席ずつ空けたり換気したりと対策は徹底されていますが、また最近感染者が増えてきて油断は許されない状況となっているので、今週は劇場公開と同時にAmazonプライムでも配信がスタートしたお家で楽しめる作品をご紹介致します。

Vol.58『劇場』

☆4.2/☆5.0点中

公式サイト:https://gekijyo-movie.com/

 

高校からの友人と立ち上げた劇団「おろか」で脚本家兼演出家を担う永田(山﨑)。

しかし、前衛的な作風は上演ごとに酷評され、客足も伸びず、劇団員も永田を見放してしまう。

解散状態の劇団という現実と、演劇に対する理想のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独を感じていた。

そんなある日、永田は街で、自分と同じスニーカーを履いている沙希(松岡)を見かけ声をかける。

自分でも驚くほどの積極性で初めて見知らぬ人に声をかける永田。

突然の出来事に沙希は戸惑うが、様子がおかしい永田が放っておけなく一緒に喫茶店に入る。

女優になる夢を抱き上京し、服飾の学校に通っている学生・沙希と永田の恋はこうして始まった。

お金のない永田は沙希の部屋に転がり込み、ふたりは一緒に住み始める。

沙希は自分の夢を重ねるように永田を応援し続け、永田もまた自分を理解し支えてくれる彼女を大切に思いつつも、理想と現実と間を埋めるようにますます演劇に没頭していき―。

 

作家・又吉直樹が「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞する前から書き始めていた恋愛小説を基に「ピンクとグレー」の監督・行定勲×脚本家・蓬莱竜太が再びタッグを組み製作された、映画『劇場』。

又吉直樹自身が「恋愛がわからないからこそ、書きたかった」と語る原作小説『劇場』は、2017年5月に発売されてから累計発行部数約50万部を記録。恋愛純文学として異例の大ベストセラーとなり、東京・下北沢を舞台に夢を追い劇団を立ち上げるも上手くいかず苦悩する青年と、彼を支えようと夢を持ちながらも自身の心を犠牲にする女性との切ない恋を描いた物語は、観た者の心を揺さぶり永遠に残り続ける作品となっています。

主演に山﨑賢人さん、ヒロインを松岡茉優さんが務め、劇中のほとんどが2人の物語で進んでいきます。

私の個人的なイメージとして王道主役キャラを演じられている印象があった山崎賢人さんですが、プライドが高く余裕がないがためについ感情で動いてしまう永田の荒っぽさと時折見せる弱さの入り混じる人間臭さがとてつもなくハマっていました。また、松岡茉優さんのさり気ない日常の動作や目線の置き方、沙希という儚い天使のような存在を繊細に表現しており、お2人の壊れそうで壊れない演技が本当に素晴らしくずっと観続けたいと思わず願ってしまうような空間を作り出しています。

映画ですが小説の主観的な視点やひとつひとつが胸をギュッと掴んで離さない文学的な台詞の言い回し、それに加えて演劇要素が存在していて、より2人の関係が繊細に描かれており、登場人物達の理想と現実の狭間で揺れ動く姿が、まるで心臓を鷲掴みにするかのような感覚にさせてきます。

夢を追う者、かつてそうだった者、思い当たる部分がある人間には焦りや嫉妬、自尊心が次第に擦り減っていくどうしようもなさに痛み無しでは観られないほど深く突き刺さる作品であります。

また恋愛関係を描いているにも関わらずキスのひとつすら描写が一切なく、その違和感がより永田と沙希の2人が自分の描く理想に縛られて生きている様を強く表している気がしました。

「演劇で出来ることは現実でも出来る」という言葉から畳み掛ける終盤は思わず涙が溢れてしまいそうになる。相手を思っての行動は相手にとって望まれたものなのかは別であり、夢を諦めれば恋人が幸せになれるのか、一緒にいることが果たして正解なのか。

恋愛と夢を追うことの背中合わせのどうしようもできない矛盾や葛藤、言葉にできない複雑な感情を真っ向から描いた、切なくも強く美しい魂のぶつかり合いのある、一生心に残り続ける作品です。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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Vol.1 『ハウス・ジャック・ビルト』
Vol.2『ピアッシング』
Vol.3『凪待ち』
Vol.4『Diner ダイナー』
Vol.5 『劇場版 Free!-Road to the world-夢』
Vol.6『トイ・ストーリー4』
Vol.7『チャイルド・プレイ』
Vol.8『アンダー・ユア・ベッド』
Vol.9『存在のない子供たち』
Vol.10『永遠に僕のもの』
Vol.11『ゴーストランドの惨劇』
Vol.12『惡の華』
Vol.13『アス』
Vol.14『人間失格 太宰治と3人の女たち』
Vol.15『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
Vol.16『アナベル 死霊博物館』
Vol.17『JOKER』
Vol.18『クロール-凶暴領域-』
Vol.19『ボーダー 二つの世界』
Vol.20『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
Vol.21『マチネの終わりに』
Vol.22『グレタ GRETA』
Vol.23『テッド・バンディ』
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Vol.25『マリッジ・ストーリー』
Vol.26『カツベン!』
Vol.27『ラスト・クリスマス』
Vol.28『屍人荘の殺人』
Vol.29『パラサイト 半地下の家族』
Vol.30『シライサン』
Vol.31『ペット・セメタリー』
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Vol.35『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
Vol.36『ミッドサマー』
Vol.37『架空OL日記』
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Vol.39『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
Vol.40『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
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Vol.44『邦画特集』
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Vol.47『眠れない夜にみたい映画』
Vol.48『トラウマ映画特集』
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Vol.51『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』
Vol.52『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
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Vol.54『ANNA/アナ』
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Vol.56『透明人間』
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テラシマユウカ

テラシマユウカ、月ノウサギ、ナルハワールドの3人からなるアイドルグループ、PARADISESのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、2020年4月からはグループが分裂。PARADISESのメンバーとして活動中。多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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