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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.67『奇跡のフォントー教科書が読めない子どもを知ってーUDデジタル教科書体開発物語』

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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.67『奇跡のフォントー教科書が読めない子どもを知ってーUDデジタル教科書体開発物語』

メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、67回目は『奇跡のフォントー教科書が読めない子どもを知ってーUDデジタル教科書体開発物語』(高田裕美著・時事通信社)です。「UD」とは「ユニバーサルデザイン」のことです。本書の中では次のように説明されています。

ユニバーサルデザインとは、ひと言で言うと「全ての人を対象にしたデザイン概念」のことです。
よく混同されがちな概念として「バリアフリー」があります。バリアフリーは「障害のある人が生活する上で障壁(バリア)となるものを取り除くこと」です。
それに対し、ユニバーサルデザインは「障害の有無、年齢、性別、人種、国籍などにかかわらず、あらゆる人々が利用しやすいように設計する」という考え方になります。
身近にある例としては、エレベーター、多機能トイレ、ピクトグラム、シャンプーボトルの側面の凹凸(触っただけでリンスと区別できるようにつけられたもの)などがあります。

ユニバーサルデザインに関して、他に有名な例をあげると、ライターもそのひとつです。ライターはもともと第一次世界大戦後、戦争によって片腕を失ってしまった人が片手でも火がつけられるように開発されたものでしたが、それは全ての人にとって利用しやすいものでした。そしてこの本は、ロービジョン(何らかの原因によって視覚に障害があり、日常生活に困難や支障が生じている状態)やディスレクシア(全体的な発達の遅れがなく、文字の読み書きに限定した困難がある人。「学習障害」のひとつ)の人も読みやすいユニバーサルデザインなフォントを開発していく「書体デザイナー」の物語です。

その開発物語を読んでいくと、さまざまな障害の実態や、「ユニバーサルデザイン」「多様性」についての考え方など、気づかされることがとてもたくさんあります。そして、ひとつのフォントを作り上げていく際に込められたデザイナーたちのとてつもない熱量とプロフェッショナルな技術、そしてそれを生み出すための膨大な積み重ねに驚かされます。「ものをつくる」ということに対してのリスペクトを失いがちな昨今の社会を考えると、これはとても尊い物語だと思いました。また、何事においても、何らかの問題を解決する際に「当事者にあたる」ということの重要性についても改めて気づかされます。

帯には「多様性の時代を生きるヒントがここにある」と書かれていますが、まさにそうしたヒントが多く含まれている本です。そしてここに込められた「情熱」がぐいぐい読書を引っ張っていくので、単純にとても面白い読み物としてもおすすめです。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』
Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』
Vol.61『「自傷的自己愛」の精神分析』
Vol.62『トランスジェンダー問題〜議論は正義のために』
Vol.63『改訂新版―カウンセリングで何ができるか』
Vol.64『家族心理学〜家族システムの発達と臨床的援助』
Vol.65『10代からのメンタルケア「みんなと違う」自分を大切にする方法』
Vol.66『喪失学「ロス後」をどう生きるか?』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
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