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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.68『レジリエンスの心理学〜社会をよりよく生きるために』

メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、68回目は『レジリエンスの心理学〜社会をよりよく生きるために』(小塩真司・平野真理・上野雄己編著/金子書房)です。

「レジリエンス」とは、本書での説明によれば「もともと、変形されたものがもとの形に戻る復元力や弾力性という意味を持ちます。そこから、困難で脅威を与えるような状況を経験したにもかかわらずよく適応する過程や能力、結果のことをレジリエンスと言うようになりました」というものです。「レジリエンス」という言葉は色々な場面で使われるようになってきましたが、この本のように、それを心理学の視点からきちんと学術的にまとめた本はなかなかありませんでしたので、そうした意味でも注目の本です。

「元に戻ることができる」という予測ができれば将来を明るく捉えることができますが、そうした「レジリエンス」を考える、ということは、何が回復につながる要素で、なぜ回復できる時とできない時があるのか、なぜ回復しやすい人としにくい人がいるのか、という問題を考えていくことでもあります。本書ではレジリエンスの概念や測定方法、臨床や教育現場での扱われ方や留意点、さらに日常生活やスポーツ、生涯発達なども射程に概説していきます。副題に「社会をよりよく生きるために」とありますが、この本ではそのためのヒントが科学的な裏付けとともに数多く紹介されています。

先述のとおり、昨今「レジリエンス」という言葉は、ビジネス関連や教育分野でもたびたび取り上げられる機会が増えましたが、本書では、その際には「レジリエンスを高めよう、鍛えよう、身につけよう」というスローガンとともにあったと指摘し、それは度重なる災害や明るくない社会情勢の元で、人々の「強くありたい」「生き抜く力が欲しい」といった願いが反映されていたのかもしれないと推測します。しかしそれは「希望」を提示する効果とともに、「弱い個体は鍛えるべきである」「逆境に負ける者は何かが足りない」という誤ったイメージの流布にも繋がってしまう危険があると本書では警鐘を鳴らしています。これはとても重要なことだと思います。この連載でこれまでに取り上げてきた本にも共通することですが、個のあり方は多様であるということを踏まえること、そして過剰な自己責任論に陥らず、社会や環境の問題へ目を向けて見ることが大事なのだと思います。

以下、参考に章立てを紹介しておきます。

『レジリエンスの心理学〜社会をよりよく生きるために』

第Ⅰ部 レジリエンスの概念と測定

第1章 レジリエンスとは
第2章 危険因子と保護因子
第3章 レジリエンスの測定
第4章 レジリエンスに関連する心理特性

第Ⅱ部 レジリエンスと臨床・教育

第5章 臨床場面でのレジリエンス
第6章 教育場面でのレジリエンス
第7章 レジリエンス介入の試み
第8章 養育とレジリエンス

第Ⅲ部 レジリエンスと日常生活

第9章 レジリエンスと人間関係
第10章 レジリエンスとライフキャリア
第11章 レジリエンスと身体活動・スポーツ
第12章 レジリエンスと生涯発達
第13章 レジリエンスと社会


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』
Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』
Vol.61『「自傷的自己愛」の精神分析』
Vol.62『トランスジェンダー問題〜議論は正義のために』
Vol.63『改訂新版―カウンセリングで何ができるか』
Vol.64『家族心理学〜家族システムの発達と臨床的援助』
Vol.65『10代からのメンタルケア「みんなと違う」自分を大切にする方法』
Vol.66『喪失学「ロス後」をどう生きるか?』
Vol.67『奇跡のフォントー教科書が読めない子どもを知ってーUDデジタル教科書体開発物語』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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