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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.69『サブカルチャーの心理学2〜「趣味」と「遊び」の心理学研究』

StoryWriter

産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.69『サブカルチャーの心理学2〜「趣味」と「遊び」の心理学研究』

メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、69回目は『サブカルチャーの心理学2〜「趣味」と「遊び」の心理学研究(山岡重行・編/サブカルチャー心理学研究会・著/福村出版)です。この連載のVol.12で以前取り上げたことのある『サブカルチャーの心理学』の続編になります。

本書によると「サブカルチャー」という言葉は、欧米の社会学では白人文化に対する黒人文化のように支配と被支配、差別と被差別という関係性において多数派から支配され抑圧され差別される少数派の「下位文化」を意味していましたが、日本では高級な文化であるハイカルチャーに対する大衆文化、低級文化という意味で使われています。しかし日本の社会学のサブカルチャー研究は欧米の文脈でなされていると本書は違和感を表明し、日本の現状に即した、これまで研究の対象とされなかった領域を見つめ直す意欲作です。

今回取り上げられているテーマは以下のようになります。

1 妄想・恋愛・ダークトライアド
2 オタク隠しの心理
3 百合―少女性への憧憬
4 オーディオマニアは何を聴いているか
5 ギャルー「女っぽさ」の反乱
6 女子力―「女らしさ」の逆襲
7 データにみる鉄道オタクの実像
8 オタクとキャリア
9 陰謀論の本質―その心理・文化・歴史
10 陰謀論―ナラティブの拡散と自己学習型マインド・コントロール
11 陰謀論とマインド・コントロール

今回は前回も取り上げてはいましたがさらに大きく「陰謀論」を取り上げていることが特徴です。陰謀論信念の心理メカニズムや、人が陰謀論に魅了されてしまう理由、陰謀論情報がどのように拡散されていくのか、などが丁寧に解説されており、現代社会が抱える大きな問題のひとつを理解し、解決する糸口を提示しています。特に、特定の個人を何らかのカルト集団に引きずり込む意図がない陰謀論を「自己学習型マインドコントロール」という概念で捉えた点は非常に重要だと思います。

また、陰謀論に関する章で紹介されているある研究は「クオリティの高い曲が最下位になったり、クオリティの低い曲がトップになるようなことはなかったが、ダウンロード回数は曲の魅力とはほぼ無関係であり、ダウンロード回数が多い曲がさらにダウンロードされるのである」と指摘します。これなどは陰謀論の拡散のメカニズムとしてもですが、昨今のヒットのあり方にも共通するようで考えさせられました。これだけでなく、それぞれのテーマがどれも学術的な裏付けとともに興味深く、面白く読めます。

ところで、編者の山岡先生が「執筆者紹介」のところで「『世の中はロックによって革命が起こるほど単純ではない』これはローリング・ストーンズのミック・ジャガーの言葉です。しかしコラムで書いたように、ロックは人々の意識を変革し社会を変革することができるのです。俺はまだロックを信じている」と書かれていたところが個人的にグッときました。狙ったわけではないのですが、そんな本をこの連載の「69」回目に紹介できて良かったです。編者の山岡先生とは光栄なことにRolling Stone Japanで対談させていただいたこともあり、そちらもぜひご一読いただければと思います。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』
Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』
Vol.61『「自傷的自己愛」の精神分析』
Vol.62『トランスジェンダー問題〜議論は正義のために』
Vol.63『改訂新版―カウンセリングで何ができるか』
Vol.64『家族心理学〜家族システムの発達と臨床的援助』
Vol.65『10代からのメンタルケア「みんなと違う」自分を大切にする方法』
Vol.66『喪失学「ロス後」をどう生きるか?』
Vol.67『奇跡のフォントー教科書が読めない子どもを知ってーUDデジタル教科書体開発物語』
Vol.68『レジリエンスの心理学〜社会をよりよく生きるために』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
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