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【連載】こころの本〜生きづらさの正体を探る Vol.70『ケアとアートの教室』

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産業カウンセラーの手島将彦による新連載『こころの本〜生きづらさの正体を探る、産業カウンセラー手島将彦のオススメ本』。

『なぜアーティストは生きづらいのか? 個性的すぎる才能の活かし方』(2016年/リットーミュージック)、『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(2019年/SW)の著者であり、音楽業界を中心にメンタルヘルスの重要性を発信し続けた手島がオススメする本を不定期連載で紹介していきます。

Vol.70『ケアとアートの教室』

メンタルヘルスや心理学に関して比較的読みやすい本を紹介しているこの連載、70回目は『ケアとアートの教室』(東京藝術大学Diversity on the Artsプロジェクト編・左右社)です。Diversity on the Arts(通称DOOR)は、2016年から東京藝術大学に開設された履修証明プログラム(主に社会人を対象に、専門知を社会に開き、一定時間を修めた者には学校教育法に基づく履修証明書が交付される制度)で、「アート×福祉」をテーマに「多様な人々が共生できる社会」を支える人材育成とコミュニティの醸成を目指しています。

本書ではアートを、絵画や彫刻といったいわゆる作品と化したものだけでなく、例えば食事を美しく盛り付けたい、ファッションを通じて他者に印象づけたい、というような日常の中での行為も「アート=創造性」であるとします。そして人はどんな苦境でもそうした創造性を完全に忘れることはなく、それによって人は人らしくあり続けることができ、「生きよう」という思いも強くできる、と言います。また、AIが台頭するような時代において、「人が人らしくあること」「何をもって人が豊かであるとするのか」といったことを考えることが今まで以上に大切になる、そしてこれからは「競争の社会」ではなく、異なった世代や文化的背景を持つ人々が「共生できる社会」でなくてはならず、それを実現するためには創造性(アート)とそれが生きる環境を作ることが重要だ、と本書は提言します。アプローチは違っていても、福祉もアートも多様性を重視しているのは同じであり、アートの特性を基盤にして、福祉や経済などの様々なものを組み立てていこうと試みます。

「講義編」では、以下のように様々なテーマが取り上げられています。

・「助けて」といえる社会へ ホームレス支援と「子ども・家族marugotoプロジェクト」(奥田知志)
・「風テラス」という試み セックスワーカーの法律相談(浦崎寛泰)
・ダイバーシティと「表現未満、」 重度知的障害者と家族の自立 (久保田翠)
・鬱から始まるアート 躁鬱研究家と「いのっちの電話」 (坂口恭平)
・誰もが誰かのALLYになれる 多様な性のあり方とフェアな社会 (松岡宗嗣)
・「アートなるもの」がアートを超える 服から始まるコミュニケーション (西尾美也)
・繋がりがつくる希望 介護民俗学と「すまいるかるた」 (六車由実)
・老いと演劇 認知症のひとと楽しむ「いまここ」 (菅原直樹)
・罪を犯したひとたちとどう生きる? ドキュメンタリー制作から考える修復的司法 (坂上香)

本書では「福祉」を介護や介助などのイメージだけにとどまらず、「誰しもが多かれ少なかれ、困難や生きにくさを抱えているなかで、ひとが幸せに生きるためにお互いに支え合い、『する/される』の関係性を超えたコミュニケーションそのものであり、またお互いの存在を認め合い、誰もがそこに存在し続けるために必要な所作」であるとします。そうした視点とともにどのようにアートがあるべきなのか、特に「アート」に何らか関わっている人には一度考えてみてほしいテーマがたくさん詰まっています。一見すると縁がなさそうな「ケア」と「アート」。自分の視野と思考を広げるという意味でもおすすめの本です。


「こころの本〜生きづらさの正体を探る」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』
Vol.2 「発達障害」に関する基礎知識を得るための2冊
Vol.3 『ニューロダイバーシティの教科書』
Vol.4 『ジェンダーと脳〜性別を超える脳の多様性』
Vol.5 『はじめて学ぶLGBT〜基礎からトレンドまで』
Vol.6 『ポップスで精神医学〜大衆音楽を“診る”ための18の断章』
Vol.7『世界一やさしい精神科の本』
Vol.8『居るのはつらいよ〜ケアとセラピーについての覚書』
Vol.9『野の医者は笑う〜心の治療とは何か?』
Vol.10『心理学[第5版]』
Vol.11『情報を正しく選択するための〜認知バイアス事典』
Vol.12『サブカルチャーの心理学』
Vol.13『うつ病と双極性障害に関する2冊』
vol.14『統合失調症がやってきた』
Vol.15『相方は、統合失調症』
Vol.16『疾風怒濤精神分析入門』
Vol.17『すずちゃんののうみそ』
Vol.18『オチツケオチツケこうたオチツケ こうたはADHD』
Vol.19『ありがとう、フォルカー先生』
Vol.20『<叱る依存>がとまらない』
Vol.21 『夜と霧』
Vol.22 『ハブられても生き残るための深層心理学』
Vol.23 『格差は心を壊すー比較という呪縛』
Vol.24 『もっと!〜愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』
Vol.25 『親子で考えるから楽しい! 世界で学ばれている性教育』
Vol.26 『多様性の科学〜画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』
Vol.27 『わたし中学生から統合失調症やってます。』
Vol28.『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』
Vol.29 『事実はなぜ人の意見を変えられないのかー説得力と影響力の科学』
Vol.30 『あの時も「こうあるべき」がしんどかった〜ジェンダー・家族・恋愛〜』
Vol.31 『もしも「死にたい」と言われたら〜自殺リスクの評価と対応』
Vol.32 『「助けて」が言えない〜SOSを出さない人に支援者は何ができるか』
Vol.33 『第四の生き方―「自分」を生かすアサーティブネス』
Vol34. 『管理される心〜感情が商品になるとき』
Vol35. 『ひとりひとりの個性を大事にする〜にじいろ子育て』
Vol.36 『なぜ人と人は支え合うのか〜「障害」から考える』
Vol.38『当事者・家族のための〜わかりやすいうつ病治療ガイド』
Vol.39 『基礎からはじめる〜職場のメンタルヘルス〜事例で学ぶ考え方と実践ポイント(改訂版)』
Vol.40 『職場で出会うユニーク・パーソン〜発達障害の人たちと働くために』
Vol.41 『3ステップで行動問題を解決するハンドブック〜小・中学校で役立つ応用行動分析学』
Vol.42『精神医学の近現代史』
Vol.43『抑圧された記憶の神話〜偽りの性的虐待の記憶をめぐって〜』
Vol.44『吃音のことがよくわかる本』
Vol.45『こんなとき私はどうしてきたか』
Vol.46『教室マルトリートメント』
Vol.47 『学校の中の発達障害』
Vol.48 『科学から理解するー自閉スペクトラム症の感覚世界』
Vol.49 『ラブという薬』
Vol.50 『なぜアーティストは壊れやすいのか?』
Vol.51 『こころの処方箋』
Vol.52 『ヒトはそれを「発達障害」と名づけました』
Vol.53 『グループ・ダイナミクス〜集団と群集の心理学』
Vol.54『HSPの心理学〜科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』
Vol.55 『生涯発達のダイナミクス〜知の多様性 生きかたの可塑性』
Vol.56『女の子だから、男の子だからをなくす本』
Vol.57『おとなの自閉スペクトラム〜メンタルヘルスケアガイド』
Vol.58『ハッピークラシー〜「幸せ」願望に支配される日常』
Vol.59『情報を正しく選択するためのー認知バイアス事典 行動経済学・統計学・情報学編』
Vol.60『精神疾患をもつ人への関わり方に迷ったら開く本』
Vol.61『「自傷的自己愛」の精神分析』
Vol.62『トランスジェンダー問題〜議論は正義のために』
Vol.63『改訂新版―カウンセリングで何ができるか』
Vol.64『家族心理学〜家族システムの発達と臨床的援助』
Vol.65『10代からのメンタルケア「みんなと違う」自分を大切にする方法』
Vol.66『喪失学「ロス後」をどう生きるか?』
Vol.67『奇跡のフォントー教科書が読めない子どもを知ってーUDデジタル教科書体開発物語』
Vol.68『レジリエンスの心理学〜社会をよりよく生きるために』
Vol.69『サブカルチャーの心理学2〜「趣味」と「遊び」の心理学研究』

手島将彦(てしま・まさひこ)
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライヴを観て、自らマンスリー・ライヴ・ベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。アマゾンの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり産業カウンセラーでもある。
https://teshimamasahiko.com

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