こんにちは、テラシマユウカです。
9月18日、ついに待ちに待ったクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』が公開となりました!
試写会に招待して頂き公開前に観てきたのですが、一度では到底理解しきれない難解さとこの興奮をまた味わいたくて堪らないと感情が収まらなかったので、最速上映とその次の回を早速連続で観てきました。
今まで観てきた映画で1、2位を争う難解さでしたが、それ故に回を重ねる毎に散りばめられている伏線や意味に気づき、繰り返す程にやみつきになってしまう、ノーラン作品の集大成といえる程に魅力が余すことなく濃縮されている作品でした。
この映画を文字で表すにはどんな言葉を並べても陳腐なものになってしまうのではないかと恐ろしさを感じてしまう程ですが、少しでもこの興奮を共有できればと、また、真っさらな状態で『TENET テネット』の世界を体感して頂きたいのでネタバレは無いように魅力をお伝えできればと思います。
Vol.66『TENET テネット』
☆4.8/☆5.0点中
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html
満席の観客で賑わうウクライナのオペラハウスで、テロ事件が勃発。罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。
部隊に参加していた名もなき男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、仲間を救うため身代わりとなって捕えられ、毒薬を飲まされてしまう…… しかし、その薬は何故か鎮痛剤にすり替えられていた。
昏睡状態から目覚めた名もなき男は、フェイと名乗る男から“あるミッション”を命じられる。それは、未来からやってきた敵と戦い、世界を救うというもの。未来では、“時間の逆行”と呼ばれる装置が開発され、人や物が過去へと移動できるようになっていた。
ミッションのキーワードは〈 TENET テネット〉。
「その言葉の使い方次第で、未来が決まる」。謎のキーワード、TENET テネットを使い、第三次世界大戦を防ぐのだ。突然、巨大な任務に巻き込まれた名もなき男。彼は任務を遂行する事が出来るのか?
新型コロナウイルスの影響により映画館への客足も減り公開予定作品が軒並み延期になってしまい、映画産業が危機的な状況に置かれる中、映画館を支援すべく声を上げたクリストファー・ノーラン監督。彼の最新作『TENET テネット』は世界中の映画館がコロナ禍から復活するという期待を多く背負っており、「この危機が去った時、人が集まりたいと思う欲求や、活き活きと過ごし、愛や笑い、そして共に涙したいと思う欲求は、より強くなるはずだ」という言葉に映画ファンとしても、映画館で映画を観るという意識が今作を起爆剤に広く浸透する事を切に願わずにはいられません。
そして、常に我々の常識を一瞬で吹き飛ばし、新しい世界を体験させてくれるノーラン監督が今作で描いたのは”時間が逆行”する世界。
突然、人類を滅亡から救うミッションに巻き込まれてしまった名もなき男が、現在から未来へ進む”時間のルール”から脱出し、時間に隠された衝撃の秘密を解き明かし未来に起こる第三次世界大戦を防ぐという、7カ国を舞台にIMAXカメラで撮影された驚異のスケールで仕掛けるタイムサスペンス超大作となっています。
ノーラン作品の特徴である”時間”をテーマにこれまで『インセプション』や『インターステラー』など多くの作品にて様々な形で常識を超えた世界を徹底的に作り込んできたノーラン監督ですが、時間への既成概念をまた新たな角度から叩き壊してくる彼の表現力とイマジネーションには相変わらず脱帽しました。
主演を務めるのはデンゼル・ワシントンの長男『ブラック・クランズマン』で主演を務めたジョン・デヴィッド・ワシントン。そして、2021年公開予定の次期バットマン役に決定したロバート・パティンソン。更にエリザベス・デビッキや、過去に『ダンケルク』『インターステラー』『インセプション』などノーラン作品に出演しているマイケル・ケインやケネス・ブラナー、『ハリー・ポッター』シリーズでフラー・デラクールを演じたクレマンス・ポエジー、『キック・アス』のアーロン・テイラー=ジョンソンなど素晴らしい俳優陣が勢揃い。
今作の最大のポイントは”時間の逆行”であり、『インターステラー』と同じくノーベル物理学賞のキップ・ソーンをスタッフとして迎え物理学や量子力学を基に脚本にも携わったそうです。
エントロピーの減少や反粒子などに関して知識がないと理解の追いつかない物理学的概念が登場しますが、その点はあくまで背景でありストーリーに置ける重要なポイントは別にあるので、物理的な要素を初めは気にしすぎる必要はないかなと感じます。
とはいえ、作品の細部まで観たいというこだわりがある方にとっては、専門的な用語について理解できない部分を残したまま展開が進んでしまうと、引っかかる部分が大きすぎる気もします。
私の知り得る限りの知識で言うと、エントロピーは”乱雑さの度合い”を意味します。乱雑さが大きい=エントロピーが大きいであり、劇中にもある銃弾が銃口から放たれるというのはエントロピーの増大、放たれた銃弾が元に戻ることがエントロピーが減少したとされます。
時間が逆行しても物理法則は同じです。例えば、物を落とした時に順逆どちらにしても重力の向きは下向きであり、仮に逆行したとしたら重力はそのままで時間の向きが逆になります。時間の向きはエントロピー増大の向きであり、エントロピーを減少させることはすなわち時間の進む向きが反転して見える。そのことをなんとなく把握しておけば、ある程度置いてけぼりにならず進めるのではないかと思います。
今作品においてポイントとなる点はざっくり言えば、時間逆行装置の、時間が順行する”赤の部屋”と、時間が逆行する”青の部屋”があり、それぞれの色の部屋ではそれぞれの方向に時間が進む、または戻るということ。
そして、どの事件がどの別の事件と同日同時刻に起こったことなのかを把握することが重要かと思われます。冒頭シーンから多くの伏線やヒントが散りばめられているので正に一瞬たりとも目を離せない、その言葉通りの作品です。
観賞後にパンフレットを読んでおさらいすると、逆行する時間の謎や時系列、回転ドア、エントロピーやアルゴリズムなど多くのキーワードについて解説されているので落ち着いて整理でき、この作品の真の面白さを更に深くまで堪能する事ができました。
もしストーリーを上手く理解できなくとも、銃口にもどる弾丸や後ろ向きに走る車、逆に動く水しぶきや、船から海面へと逆に打ち付けられる波、時間が逆行している人間と順行している人間との壮絶なアクションと今まで誰も観たことのない映像が映し出され、一体どう撮影されたのかと知的好奇心をくすぐられ、そんな映像を観るだけでも十分に満足できる映画館で観る意味のある作品です。
逆行でのアクションシーンは特に凄まじく、ただ巻き戻しをしているのではなく、まるでダンスを覚えるかの様に普段の行動とは違う不自然な動きを役者が覚え演じたものです。劇中に度々登場する徹底的に計算し尽くされた逆行シーンは、CGなどデジタルに頼らないノーラン監督であるからこそ、本物の今まで見たことのない斬新かつ鮮烈な映像を我々に体感させてくれたのです。
また、回文となっている原題『TENET』の意味、様々な角度からの考察を読むという底知れぬ楽しさも広がっています。
味わえば味わうほどに癖になる、追いテネットをしなければ…… と我慢ならなくなるノーラン中毒不可避な今作。
もう台詞を覚えてしまったシーンもあるほどに展開がわかっていても、ヒントがあるのに前回は気付かなかったということがいくつも浮かび上がってきて、ラストシーンの最後のピースがハマった瞬間のまさかの着地点など鳥肌がたつばかりで、何度観ても楽しくて仕方ありません。
可能であるならば記憶を消して何も知らない状態でまたこの世界を堪能したい。そして未知なる体験に驚愕し、常識を覆され続ける時間から抜け出したくないとすっかりテネットの世界へと没入してしまいます。
未だかつて出会ったことのない次元の違う映画体験を、劇場へと体感しに行ってみてはいかがでしょうか。
『TENET テネット』、観賞後に一歩外に出るとこれまでの世界が一味も二味も違って感じられるかもしれません。
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