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StoryWriter

過ごしやすい気温になってきたこの季節、夜の散歩がマイブームになりつつあります。

日常生活で通っている道の反対方向に歩いてみると、意外な発見があったり、たまに迷子になってしまったり、何の目的もない時間を過ごすことが生きていると感じられる瞬間でもあったりします。

自分が今住んでいる街の知らない一面を知るたびに、なんだかんだ居心地よくてずっと住んでいたいな〜と思える気がします。

今週はそんな、それぞれの街の上で生きる私たちにそっと寄り添ってくれるような映画をご紹介します。

Vol.96『街の上で』

☆4.5/☆5.0点中

公式サイト:https://machinouede.com/

 

下北沢の古着屋で働いている荒川青(あお)。青は基本的にひとりで行動している。たまにライヴを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数が多くもなく、少なくもなく。ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。事足りてしまうから。そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、また、いざ出演することにするまでの流れと、出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間、またその過程で青が出会う女性たちを描いた物語。

 

映画『愛がなんだ』『mellow』『his』と話題作を立て続けに発表してきた今泉力哉監督が、下北沢映画祭からオファーを受け、共同脚本に漫画家・大橋裕之を迎えてオール下北沢ロケで挑んだオリジナル長編映画。

主人公・青を演じるのは、『愛がなんだ』のナカハラ役以来、今泉監督とは2度目のタッグであり映画初主演の若葉竜也。青の元恋人・雪役に『少女邂逅』の穂志もえか、青が通う古本屋の店員・田辺役に『コントが始まる』の古川琴音、青に映画出演を依頼する大学生・町子役に『お嬢ちゃん』の萩原みのり、町子の映画で衣装スタッフをするイハ役に『あの頃。』の中田青渚と、フレッシュな実力派女優陣が主人公・青を取り巻く4人のヒロインを演じ、更には成田凌も友情出演。

これまで観る者の日常の延長線のような、ありのままの自分に寄り添ってくれる共感性の高い温かみのある作品を作り出してきた今泉監督が、古着屋・カフェ・ライヴハウス・劇場と多種多様な文化が入り混じる下北沢の街ならではの雰囲気を笑いと共に紡ぎ出してゆくストーリーとなっています。

絶妙に噛み合わない会話や、何気ない日常での行動や思考。今泉監督自身の実体験も作品に宿っていて、本当にそこに生きている人間が存在しているような、自分でもちょっと心当たりがあるかもしれない瞬間があるのがなんだか可笑しくてくすぐったい。

下北沢の街を歩いていたらいつかどこかで巡り会うのではないかというような気配のする、どの瞬間を切り取っても”いつも通り”である心地良さと、みんなそれぞれ駄目な所があるけれど憎めなくて、ひねくれているけど真っ直ぐで魅力的なキャラクターたちは親近感があって全ての日常が愛おしくてしょうがなくなる。

街も人も時間と共に変わりゆくものではあるけれど、今この時間に、ここで生きる人々の笑ったり泣いたりが重なり合う瞬間を同じ目線に立って見つめていられる、夢物語ではないんだけれど、なんだか優しい魔法にかかったような時間が漂っています。

監督の描く作品の特徴である、登場人物の日常を否定しないことが、この作品に自己投影している私自身にありのままでいいんだと肯定してくれて、改めて今泉監督の描く世界に包まれている時間が好きだと再認識する映画でした。

誰もみることはないけど、
確かにここに存在している。

自分にも自分なりの物語があるのだと、些細な日常の愛しさ感じられる作品です。

なんだか、下北沢の街を歩きながらノスタルジックな気分に浸りたくなってしまいます。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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テラシマユウカ

テラシマユウカ、月ノウサギ、ナルハワールド、キラ・メイ の4人からなるアイドルグループ、PARADISESのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、2020年4月からはグループが分裂。PARADISESのメンバーとして活動中。多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

テラシマユウカ Twitter

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