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「今日はさぼって映画をみにいく」

ついに連載100回目を迎えました!!

始まった当初は毎週映画コラムを書き続けるなんて継続できるだろうか、100回を迎える日なんて到底来ないだろう、なんて思っていましたが、気づけばあっという間にこの日を迎えていました。

『ハウス・ジャック・ビルト』という個人的趣向がだだ漏れでスタートした映画コラムですが、そこそこ偏りつつも様々なジャンルの作品に出会うことができました。

たくさんの素晴らしい映画ライターの方々がいらっしゃる中で、ただの映画好きである私の拙い文章を読んでくださっている皆さんには感謝しかありません。

コラムきっかけで知ってファンになってくださった方がいたり、映画監督の方々と対談させて頂いたりと、想像もしていなかった恐れ多い嬉しいことが起きていて、継続は力なりという言葉の重みをひしひしと感じています。

これからも映画の素晴らしさを届けられる様に、そして、ちょっとでも大好きな映画に色んな角度から関わることができたらいいな〜なんて淡い期待も持ちながら、毎週新たな作品との出会いを続けていきたいなと思います。

本当にいつもありがとうございます!

これからも宜しくお願い致します!!

Vol.100『ファーザー』

☆4.5/☆5.0点中

公式サイト:https://thefather.jp/

 

記憶と幻想の境界が崩れゆく父と、戸惑う娘
驚きと不安の中たどり着いた答えとは―?

ロンドンで独り暮らしを送る81歳のアンソニーは記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配する介護人を拒否していた。そんな中、アンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられショックを受ける。だが、それが事実なら、アンソニーの自宅に突然現れ、アンと結婚して10年以上になると語る、この見知らぬ男は誰だ?

なぜ彼はここが自分とアンの家だと主張するのか? ひょっとして財産を奪う気か?

そして、アンソニーのもう一人の娘、最愛のルーシーはどこに消えたのか?

現実と幻想の境界が崩れていく中、最後にアンソニーがたどり着いた〈真実〉とは――?

 

ロンドンで暮らす81歳のアンソニーが認知症を患ったことにより、家族や自分自身の事、時間や場所の感覚など、記憶を失っていく日々を綴った、世界中で上演された傑作舞台を驚異の演技と画期的な表現で映画化したヒューマンドラマ。

アカデミー賞では作品賞・助演女優賞・美術賞・編集賞にノミネートし、脚色賞と主演男優賞を見事受賞しました。

主演を務めたのは、1991年『羊たちの沈黙』でアカデミー賞に輝いた名優、アンソニーホプキンス。そして、認知症の父を支える娘のアン役には『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞を受賞したオリヴィア・コールマン。

戯曲を手掛けたフロリアン・ゼレールが監督・脚本を務め、認知症の父親の視点で作品を描くという画期的な表現を成し遂げ、観客に認知症を疑似体験させるかの様な感覚を与える映画となっています。

認知症をテーマにした作品はいくつも存在しますが、患った本人ではなくその家族など身近な人物の視点で描かれるものばかり。今作ではアンソニーの視点で描かれている為、第三者の冷静な状態でいられず、認知症の苦しみが胸が締め付けられるほど直に伝わってきます。

娘の顔が別人になっている、
家の中に見知らぬ男がくつろいでいる、
娘の情報が聞いていた事と一致しない、
腕時計が盗まれる、
気づいたら自分の居る場所が変わっている。

やがて何度も同じような場面が繰り返され時間の感覚を失い、現実と幻想が曖昧になる。自分がいつからどこにいて、周りにいる人間が誰でどういう関係性なのか、全てがあやふや。

この人が娘のアンで……。次に出てきた人は顔が違う、じゃあこの人は誰だ……? と辻褄が合わない事ばかりで一向にアンソニーの周りの情報整理ができない。実際に、娘アン役に別の女優を起用していたりと本当に顔が一致しません。

まさに認知症を患っている本人が体験しているシチュエーションそのもので、観客に与えられる情報は認知症の内側アンソニーの視点。その為、時系列がぐちゃぐちゃで、真実かどうか分からない記憶が上書きされていく様に、観る者まで共に混乱させられる様に演出が仕向けられています。

ただの単純な父と娘の感動的なヒューマンドラマなのではなく、サスペンスやホラーの様な苦しみと恐ろしさの要素も含まれています。

いくつか娘のアン視点で描かれるシーンもあり、たった1人の父親の介護と、自分の人生の間で簡単には決断できないことへの葛藤と苦しみも描かれていました。

脚本、構成、演出、そしてなにより演技が素晴らしく、少ないキャストとほぼ同じ室内という限られたシチュエーションでのストーリー展開ですが、濃く深みがあり、あっという間に時間が過ぎていきます。

誰にとっても他人事ではない将来の話。

疑似体験することによって認知症の苦しみをよりリアルに知ることができ、病への接し方や考え方の変わる作品です。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


「今日はさぼって映画をみにいく」のバックナンバーも合わせてチェック!!

Vol.1 『ハウス・ジャック・ビルト』
Vol.2『ピアッシング』
Vol.3『凪待ち』
Vol.4『Diner ダイナー』
Vol.5 『劇場版 Free!-Road to the world-夢』
Vol.6『トイ・ストーリー4』
Vol.7『チャイルド・プレイ』
Vol.8『アンダー・ユア・ベッド』
Vol.9『存在のない子供たち』
Vol.10『永遠に僕のもの』
Vol.11『ゴーストランドの惨劇』
Vol.12『惡の華』
Vol.13『アス』
Vol.14『人間失格 太宰治と3人の女たち』
Vol.15『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
Vol.16『アナベル 死霊博物館』
Vol.17『JOKER』
Vol.18『クロール-凶暴領域-』
Vol.19『ボーダー 二つの世界』
Vol.20『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
Vol.21『マチネの終わりに』
Vol.22『グレタ GRETA』
Vol.23『テッド・バンディ』
Vol.24『ドクター・スリープ』
Vol.25『マリッジ・ストーリー』
Vol.26『カツベン!』
Vol.27『ラスト・クリスマス』
Vol.28『屍人荘の殺人』
Vol.29『パラサイト 半地下の家族』
Vol.30『シライサン』
Vol.31『ペット・セメタリー』
Vol.32『ジョジョ・ラビット』
Vol.33『his』
Vol.34『犬鳴村』
Vol.35『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
Vol.36『ミッドサマー』
Vol.37『架空OL日記』
Vol.38『スキャンダル』
Vol.39『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
Vol.40『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
Vol.41『デッド・ドント・ダイ』
Vol.42『青色映画ポスター特集』
Vol.43『MyFrenchFilmFestival フランスショートフィルム特集』
Vol.44『邦画特集』
Vol.45『エズラ・ミラー特集』
Vol.46『エディ・レッドメイン特集』
Vol.47『眠れない夜にみたい映画』
Vol.48『トラウマ映画特集』
Vol.49『ゴシック映画特集』
Vol.50『映画と音楽』
Vol.51『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』
Vol.52『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
Vol.53『アングスト/不安』
Vol.54『ANNA/アナ』
Vol.55『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
Vol.56『透明人間』
Vol.57『ダークナイト』
Vol.58『劇場』
Vol.59『海底47m 古代マヤの死の迷宮』
Vol.60『ダンケルク』
Vol.61『ハニーボーイ』
Vol.62『インセプション』
Vol.63『ようこそ映画音響の世界へ』
Vol.64『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
Vol.65『インターステラー』
Vol.66『TENET テネット』
Vol.67『エノーラ・ホームズの事件簿』
Vol.68『ミッドナイトスワン』
Vol.69『悪魔はいつもそこに』
Vol.70『マティアス&マキシム』
Vol.71『シカゴ7裁判』
Vol.72『レベッカ』
Vol.73『ザ・ハント』
Vol.74『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』
Vol.75『エイブのキッチンストーリー』
Vol.76『オン・ザ・ロック』
Vol.77『ザ・コール』
Vol.78『ザ・プロム』
Vol.79『ワンダーウーマン 1984』
Vol.80『ソング・トゥ・ソング』
Vol.81『Swallow/スワロウ』
Vol.82『ヒッチャー ニューマスター版』
Vol.83『恋する遊園地』
Vol.84『ズーム/見えない参加者』
Vol.85『ダニエル』
Vol.86『マーメイド・イン・パリ』
Vol.87『プラットフォーム』
Vol.88『聖なる犯罪者』
Vol.89『ベイビーティース』
Vol.90『花束みたいな恋をした』
Vol.91『ビバリウム』
Vol.92『ガンズ・アキンボ』
Vol.93『トムとジェリー』
Vol.94『BLUE/ブルー』
Vol.95『パーム・スプリングス』
Vol.96『街の上で』
Vol.97『ザ・スイッチ』
Vol.98『SNS-少女たちの10日間-』
Vol.99『ノマドランド』

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テラシマユウカ

テラシマユウカ、月ノウサギ、ナルハワールド、キラ・メイ 、ウタウウタ、キャ・ノンからなるアイドルグループ、PARADISESのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、2020年4月からはグループが分裂。PARADISESのメンバーとして活動中。多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

テラシマユウカ Twitter

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