テラシマユウカの映画コラム Vol.124『最後の決闘裁判』

こんにちは、テラシマユウカです。

学生の多感な頃には、揉め事や意見の食い違いなど、自分とは異なる意見を持った人をすんなり認めることが難しく感じた時期があったなと思い返すことがあります。

きっかけとなる出来事やふと発言した言葉に対しても、人によって記憶していることが真反対だったり、あの子はこう言っていたけどこの子はそんなこと言ってないと主張していたり、真実はどこにあるんだろうと不思議に思うことが多々あります。

実際の事実とひとりの人間にとっての真実は意外と真逆のところにあるのかも知れません。

今週はそんなそれぞれの人間にとっての”真実”について深く考えさせられる作品をご紹介します。

Vol.124『最後の決闘裁判』

歴史的なスキャンダルを映画化！
衝撃の実話ミステリー。

アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング／旅立ち』のマット・デイモンとベン・アフレックが脚本家として24年ぶりにタッグを組み、リドリー・スコット監督が豪華キャストを迎え、実話を元に歴史を変えた世紀のスキャンダルを描くエピック・ミステリー。

本作は14世紀末のフランスで実際に行われたという、歴史上記録に残るかぎり最後となる決闘裁判の史実を基に、レイプされたと訴える女性とその夫、そして加害者の男の3人の生死をかけた戦いが描かれています。

夫である騎士ジャン・ド・カルージュにマット・デイモン、妻のマルグリットにジョディー・カマー、そして加害者である従騎士ル・グリをアダム・ドライバーが演じ、濃厚な人間ドラマが展開していきます。

今作では被害者の夫視点、加害者の男視点、被害者の女性視点の三者の目線から捉え、時系列はシャッフルされることなく起きた物事の順を各々の記憶から追い、人物ごとの構成にはっきりと分けられて本当に同じ出来事を3回見せられる。

同じ構図のシーンが繰り返されても、三者の視点によって捉えられる世界や、それぞれの言い分や想いの違いが、同じ瞬間のセリフでも言葉が全く違ったりと巧妙な演出と共に描き分けられていて、辿っている道は同じでも全く違う印象を受けます。

マルグリット視点のみ《真実》のテロップが入り、カルージュとル・グリの視点での自分にとって都合のいい出来事だけ印象に残っているという人間の記憶のずるさや曖昧さが強調される。

事実は一つしかなくても捉える人間の違いによって、その人なりの”真実”が存在する。ル・グリは最後まで無罪を貫き通していましたが、ただ嘘をついていたのではなく、ル・グリにとっては心の底からそれが”真実”であったんだと気付かされます。

唯一信念を貫き通したマルグリットの告発に対して誰も向き合うことなく、決闘裁判として大衆に一種のエンターテイメントとして消費されてしまう理不尽な様子は、愚かさや滑稽さといった人間のあらゆる本質を多方面から浮き彫りにし、腹立たしさを感じずにはいられません。

長尺で同じ出来事の繰り返しでも飽きがくるどころかどんどん魅入ってしまい、胸糞の悪さと虚無感ばかりの結末にも後味の良さを感じる、リドリー・スコットの手腕が存分に発揮された傑作です。

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