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こんにちは、テラシマユウカです。

映画にはさまざまな題材がありますが、大きくテーマとして描かれている題材の裏には必ずと言ってもいいほど描かれた年代の時代背景が含まれています。

貧困・政治・ジェンダー……そんな時代背景についてまわる社会問題について考えさせられることも多いですが、時代が変わるごとに社会問題の変化を感じつつも、ずっと昔の映画から描かれ続けていることは現代にも言えることが多く、その根強さや変化することの難しさを同時に感じます。

数十年後の映画は、一体どんなことが描かれているのか、楽しみでもありつつ不安も入り混じる、何とも言えない感覚です。

Vol.129『リトル・ガール』

公式サイト:https://senlisfilms.jp/littlegirl/

 

フランス北部、エーヌ県に住む少女・サシャ。出生時、彼女に割り当てられた性別は“男性”だったが、2歳を過ぎた頃から自分は女の子であると訴えてきた。しかし、学校へスカートを穿いて通うことは認められず、バレエ教室では男の子の衣装を着せられる。男子からは「女っぽい」と言われ、女子からは「男のくせに」と疎外され、社会はサシャを他の子どもと同じように扱わない……。

トランスジェンダーのアイデンティティは、肉体が成長する思春期ではなく幼少期で自覚されることについて取材を始めた監督は、サシャの母親カリーヌに出会った。長年、彼女は自分たちを救ってくれる人を探し続けて疲弊していたが、ある小児精神科医との出会いによって、それまでの不安や罪悪感から解き放たれる。そして、他の同じ年代の子どもと同様にサシャが送るべき幸せな子供時代を過ごせるよう、彼女の個性を受け入れさせるために学校や周囲へ働きかける。まだ幼く自分の身を守る術を持たないサシャに対するカリーヌと家族の献身、言葉少なに訴えるサシャ本人の真っ直ぐな瞳と強い意志が観る者の心を震わせる。

「彼女」と呼ばれたい、
スカートを穿きたい、
ふつうの女の子として扱われたい。

自分の望む性別を生きられない7歳の少女が抱く、当たり前の願いと、子どもの自由と幸せを守るために奔走する母の、譲れない闘い。

幼少期の”性別の揺らぎ”に対する認知と受容を喚起する貴重なドキュメンタリー。

 

出生時は男の子として判断され、2、3歳で”自分は女の子だ”と主張するようになった7歳のサシャに密着し、トランスジェンダーという属性を持つだけで社会の壁に阻まれ、社会がもたらす偏見や差別など様々な困難に直面しながらも家族とともに悩み、葛藤していく様子が描かれています。

今作は密着型ドキュメンタリーですが、ナレーションなどなしに整理された構成になっています。カメラを意識するでもなくただ淡々と彼女と彼女の周囲の人々のやりとりと心理的な葛藤を中心に映し出した映像は、何も知らずに見るとドキュメンタリーと気づかずに彼女の人生を見守るものとなっています。

そんなサシャ本人はあまり言葉で語ることはなく、カメラもサシャに問うことはありません。言葉無くしても、彼女の瞳に溜まり次第に頬をつたう涙に、あの幼い7歳の子の心の内に一体どれほどの苦悩があるのだろう、と観るものに訴えかけます。

母の口から言葉にして語られる苦悩と、語らずとも伝わってくるサシャの苦悩が対比的に映し出されています。

世の中で、「差別していない、理解しようとしている」という認識をしていても、腫れ物に触るような感覚で接する特殊な存在であるという認識が無自覚に植え付けられているのではないでしょうか? マイノリティはマジョリティがそこから学びを得るためだけの教材ではないのだと、特殊ではなくただみんな同じ人であるのだとそう訴えかけるべきなのではないかと自問自答するばかりです。

僭越ながら普段数字として評価をつけさせて頂いている当連載ですが、今回は評価を控えさせて頂きます。

※「今日はさぼって映画をみにいく」は毎週火曜日更新予定です。


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Vol.2『ピアッシング』
Vol.3『凪待ち』
Vol.4『Diner ダイナー』
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Vol.7『チャイルド・プレイ』
Vol.8『アンダー・ユア・ベッド』
Vol.9『存在のない子供たち』
Vol.10『永遠に僕のもの』
Vol.11『ゴーストランドの惨劇』
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Vol.13『アス』
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テラシマユウカ

テラシマユウカ、月ノウサギ、ナルハワールド、キラ・メイ 、ウタウウタ、キャ・ノンからなるアイドルグループ、PARADISESのメンバー。2016年に行われた新生BiSの合宿オーディションに参加し、BiS公式ライバル・グループSiSのメンバーとして活動を始めるが、お披露目ライヴ直後にまさかのグループが活動休止。2016年10月にGANG PARADEへ電撃加入し、2020年4月からはグループが分裂。PARADISESのメンバーとして活動中。多くを語らない性格ながら強い意志と美学を持ってグループになくてはならない存在に。映画好きが高じて、StoryWriterにてテラシマユウカの映画コラム「それでも映画は、素晴らしい。」の連載スタート。

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