人の意見を聞く、という行為について考える時間がこの頃よく存在します。
相手の話を聞くというのはただ単純なことではなくって、どのような姿勢で挑み、いかにして話を噛み砕き受け入れるのか。はたまた自分の考えと比較し違いをどう対処するのか。
人間が無意識にのうちに抱いているであろう先入観が、意見をぶつけ合うにあたって邪魔をしてしまうというのは少なからず日常に存在しているはずです。
意見交換をするにあたって相手と自分、それに加えてまた別の第三者が存在するとまた違った道筋を辿ることができるのかもしれないなぁと、人間の厄介さを感じます。
正解がないからこその良さがあるのかもしれませんが、正解を求めてしまうのも人間の性なのかもしれません。
Vol.136『さがす』
☆4.1/☆5.0点中
大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。
日本の貧困の極致に向き合う強烈な作風で、2019年に多くの映画ファンに衝撃を与えた『岬の兄妹』で注目を集めた片山監督の商業デビュー作。
指名手配中の連続殺人犯を見たと言い残し、謎の失踪を遂げた父を探す娘。そんな少女が一人の不審な男性に遭遇するとともに予想だにしない結末へと向かっていく様を描いた物語。
失踪した父親役を映画・テレビドラマ・演劇・バラエティ番組、さらには映画監督に至るまで、幅広い活躍を続ける佐藤二朗。
その娘を『湯を沸かすほどの熱い愛』や、2021年に公開された『空白』でほとんど言葉を発しない役でありながら、映画界に大きなインパクトを残した伊東蒼、そして二人の前に現れた謎の男性を清水尋也が熱演しています。
この、佐藤二朗×伊東蒼×清水尋也というタッグが凄まじいパワーを放ち、1秒たりとも息もつけず、社会の闇と対峙してしまったと、強烈な力で観客を作品に取り込む。
シリアスで悲哀に溢れているのにコミカルにも転化させ、人間の弱さを痛いほどついてくる佐藤二朗。
2021年に公開された『空白』同様、この子が疾走するととてつもない物語が始まってしまうという胸のざわめきと、場の空気をすべて飲み込む牽引力と恐ろしいくらいの存在感、感情を爆発させる芝居に人の心を抉り出す伊東蒼。
良い意味で気味が悪いその瞳の奥には一体どの様な闇が存在するのだろうか?恐怖を感じながらも一歩踏み込みたくなるような鋭い眼光で突き刺す清水尋也。
とんでもない3人が対峙してしまったと、時間が経つほどに身体が重くなるような鬱屈感を抱えながら、終映後も耳から離れないピンポン球の跳ねる音に取り憑かれる。
血生臭い人間味と生活臭、静かなる死と猛る生命力。その狭間で揺れ動く死にきれない女性の存在。
混沌とした真っ暗な闇の深淵で、私たちは一体何を”さがす”のだろうか?
我々が目を逸らしたい社会のひずみを、『さがす』は容赦なく突きつけます。
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