「偶然」というものは、いつも思いがけない局面に我々を立たせてくれる。
いまこうしてステージに立ち活動をしているのも、偶然オーディションの応募をみつけ、偶然締切1時間前で、偶然気が向いて申し込み、色々あって偶然事務所の前で社長と遭遇したのが始まりだった。
偶然はめぐりめぐって必然へと変わりゆくのかもしれない。そんな気がしてしまう。
自分自身の人生だけでなく、周囲の人々の”偶然”にも”偶然”立ち会ってみたいと思う。
Vol.137『偶然と想像』
☆4.3/☆5.0点中
https://guzen-sozo.incline.life/
第一話「魔法(よりもっと不確か)」
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子(古川琴音)は、仲の良いヘアメイクのつぐみ(玄理)から、彼女が最近会った気になる男性(中島歩)との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。
第二話「扉は開けたままで」
作家で教授の瀬川(渋川清彦)は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木(甲斐翔真)の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒(森郁月)に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。
第三話「もう一度」
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子(占部房子)は、仙台駅のエスカレーターであや(河井青葉)とすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。
監督を務めるのは、2020年のカンヌ映画祭では『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞など4冠に輝き、2020年のベネチア国際映画祭では、共同脚本を手がけた『スパイの妻』が銀獅子賞、そして本作が第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞するなど世界が最も注目する監督のひとりとなり、また日本映画の新しい時代をリードする存在となった濱口竜介。
この映画は3つの短編からできているオムニバスであり、タイトルの通りそのひとつひとつの物語に「偶然」と「想像」がある。
「偶然」と「想像」は繋がっていて、「偶然」が起きたことで私たちはあらゆる可能性を「想像」する。偶然の出会いから対話を通して想像もしていなかった新しい自分に出会う。「想像」の在り方はそれぞれに異なっている。
普段からどういう想像をしているのか、どのようなライフワークのスタイルなのか、観る人によって共感するポイントが異なるだろうし3つのなかで好きな話がはっきりと分かれてきそうな作品。
基本的に会話劇が続き、言葉の抑揚、間が心地よく、魅せたい部分でわざとらしく映像が動く。会話だけでロマンス、コメディ、エロス、ホラー、様々なドラマをみせてくれる、まるで舞台を観劇しているかのような余韻が残る。
第一話「魔法(よりもっと不確か)」
タクシーの中で繰り広げられる生々しい会話劇。後部座席に隣り合って座る女性ふたりのたわいない恋バナを固定アングルで覗き続ける。長回しの没入感と、棒読みの不自然な口論のリズム感が心地よい。
古川琴音演じるモデルの芽衣子の、あんな風にしか正直でいられないところにすこし共感してしまう。
渋谷が舞台の話、渋谷で映画を観た後に芽衣子の歩いたあの道を歩いて帰りたくなった。
彼女がまた日常を生きていこうとしている様子に救われる。
第二話「扉は開けたままで」
エロティックでロマンティック。
第一話が終わり急に別の世界観に移るが、すぐに次の世界へと引き込まれる。
「言葉が言葉を求めるのです」
大学教授の言葉選びが堪らなく好きで全てが刺さる。人それぞれどうして感性が違うのだろうか、そんな疑問について視野をぐっと広げてくれる。
第三話「もう一度」
ITエンジニアが職を失う世界。ネットやSNSという外界と繋がる媒介がなくなった世界で、他者の存在や関係の本質が浮かびあがってくる。
大切な記憶が時間と共に曖昧になる儚さを感じつつも、人は想うことしかできなくとも救われることもあるんだとしみじみする。
仙台駅のエスカレーターで再会ごっこをしたい。
3つの物語の中でどの偶然が起きてほしいか、自分なら誰みたいな想像をするだろうか?
そんな話を誰かとしながら、人それぞれの感性や性格の違いを感じてみるのも楽しいかもしれない。
「偶然」という言葉はロマンティックで人と人とが繋がる豊かさを持ち、その先の物語も覗いてみたいと思わせてくれる。
短編集の醍醐味がたんと詰まった映画でした。
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